苗木なえぎ)” の例文
桐の苗木なえぎに葉が三枚ついている。そのうちの一葉がばさりと落ちた。こういう若木は秋の到ることを著しく感ずるものであるかどうか。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「そうかい、もらっていって、えるから。」と、二人ふたりおなじくらいの苗木なえぎを一ぽんずつ、ぶらさげて、おうちかえったのでした。
いちじゅくの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
守山もりやまというところの桃畑は、わたしたちの義塾ぎじゅくの木村先生がお百姓にすすめて、桃の苗木なえぎを移し植えさせたことからはじまったと聞きます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
美濃の苗木なえぎなどでは普通にはスモトリバナで、白花の菫をジロバナ、これに対して紫色のをタロバナと呼んでいます。
桐の苗木なえぎを描いたもので、その苗木には三枚だけ葉が附いていたが、その三枚の葉が散ってしまった跡はもう枯木になってしまった、というのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
六年間苗木なえぎの生長するのを馬鹿見たようにじっと指をくわえて見ていなければならない段になって、敬太郎はすでに充分退却に価すると思い出したところへ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日本では昔その苗木なえぎがわがくにへ渡って今日信州しんしゅう〔長野県〕あるいは東北地方にわずかに見るばかりである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
……これもみな母上のおちからが、私という苗木なえぎを通じて、ひとつのはなを咲かせてきた結果でございます。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃、銀座通に柳の苗木なえぎ植付うえつけられた。この苗木のもとに立って、断髪洋装の女子と共に蓄音機の奏する出征の曲を聴いて感激を催す事は、鬢糸びんし禅榻ぜんとうたんをなすもののくすべき所ではない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鹿児島かごしま津和野つわの、高知、名古屋、金沢、秋田、それに仙台せんだい——数えて来ると、同門の藩士もふえて来たね。山吹やまぶき苗木なえぎなぞは言うまでもなしさ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
苗木なえぎ城の苗木久兵衛も、木曾福島の木曾義昌よしまさも、彼の旗を、ひたすら待っていた者に過ぎない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また同じ国苗木なえぎ領の二つ森山では、文政七八年のころ木を伐出す必要があって、十月七日に山入して御幣餅をこしらえたのはよいが、山の神に上げるのを忘れて、自分たちでみな食ってしまった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
年郎としろうくんと、吉雄よしおくんは、ある学校がっこうかえりにおともだちのところへあそびにゆきました。そのおうちには、一ぽんおおきないちじゅくのがあって、そのえだしてつくった苗木なえぎが、幾本いくほんもありました。
いちじゅくの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その地方は一方は木曾川を隔てて苗木なえぎ領に続き、一方は丘陵の起伏する地勢を隔てて岩村領に続いている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信長は大きな意義を文化にして、この安土の一区劃にも、南蛮寺やその学校を許していたが、さてこうして、心にもなくやらせている学園から、芽やつぼみを持ちかけている球根や苗木なえぎを見ると
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくのうちのは、縁日えんにちってきた苗木なえぎだよ。」
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
わずかにこの街道では四月二十七日に美濃苗木なえぎの女中方が江戸をさしての通行と、その前日に中津川泊まりで東下する弘前ひろさき城主津軽侯つがるこうの通行とを迎えたのみだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
というのは、越後、越中えっちゅう飛騨ひだの国あたりから信濃の国へかけて、また西は木曾川のある美濃の国の苗木なえぎまでの道すじはずっと大昔からの道というからであります。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方には伊那の谷の方を望み、一方には親しい友だちのいる中津川から、落合、附智つけち久々里くくり、大井、岩村、苗木なえぎなぞの美濃の方にまで、あそこにも、ここにもと
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彦根ひこね井伊氏いいし大垣おおがきの戸田氏、岩村の松平まつだいら氏、苗木なえぎの遠山氏、木曾福島の山村氏、それに高島の諏訪すわ氏——数えて来ると、それらの大名や代官が黙ってみていなかったら、なかなか二門の大砲と
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昨日きのう苗木なえぎ藩主の遠山友禄が大垣に行って総督にお目にかかり勤王をちかったとか、きょうは岩村藩の重臣羽瀬市左衛門はせいちざえもんが藩主に代わって書面を総督府にたてまつり慶喜に組した罪を陳謝したとか
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)