膝行袴たっつけ)” の例文
彼方かなたへすたすたと行く後ろ姿を見れば、黒い布で顔をつつみ、黒い膝行袴たっつけや脚絆もはいて、足も身軽なわらじ穿きではないか。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫巾しきん振袖ふりそで艶冶えんやの色子すがたは、黒ずくめの覆面と小袖の膝行袴たっつけにくるまれ、足さえわらじばきの軽々しい身ごしらえです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、この二人もたちまち声を消して、奈良街道を、西と東に別れ去ってしまったが、おなじ路傍に脚を休めていた藺笠いがさ膝行袴たっつけの旅の主従も、また
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金吾は前後の木立を見廻して、万太郎に切株きりかぶの根を床几しょうぎにすすめ、自分は土へじかに膝行袴たっつけの腰をおろしました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下には周馬、いつもの黒紬くろつむぎあわせを着ていた。膝行袴たっつけはそのままで見苦しくない。道中差は野刀一本、身軽のせいか、なんだかサバサバとした気持になった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熟考じゅっこうの長さにひきかえて、けっするとすぐであった。蔦之助と小文治も、膝行袴たっつけひもをしめ、脇差わきざしをさし、手馴てなれのゆみと、朱柄あかえやりをそばへ取りよせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここはいい。逃げたやつを逃がすまいぞ。法師頭巾の大男と、ひとりは膝行袴たっつけの侍だ。取り逃がすな」
かねてから三衣袋にひそませておいた黒奉書くろぼうしょあわせ一枚、風をはらませてフワリと身にまとい、目立たぬ色の膝行袴たっつけをりりしくうがち、船底の板子を二、三枚はねのけた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その顔たるや、一兵一兵、足利方の陣には一つもないような形相ぎょうそうの者ばかりだった。具足ぐそく膝行袴たっつけなどボロボロである。白昼降りて来た天魔の兵かとさえあやしまれる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの自身番から一町半ほど先の路傍に、たれが脱ぎ捨てた物か、極めて薄布地うすぬのじを用いた黒衣くろごの小袖に、黒頭巾、黒の膝行袴たっつけなどが、ひとまとめにして、捨ててあった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒の覆面に黒の膝行袴たっつけをはいて、自分や金吾とほとんど同じ身ごしらえをしていることで、ちょうど夢遊病にでもなった自分の分身がそこを通って行くような気がする。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とおどりだしたのは、胴服どうふく膝行袴たっつけをはいた異形いぎょうな男——つづいて松明たいまつを口にくわえ、くさりにすがって三によじてきたのは、味方みかたと思いのほか、さるのような一少年。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山着の筒袖に膝行袴たっつけ穿き、布頭巾ぬのずきんで顔をくるんでいたその者は、左右の腕を、いきなり介と頼春の二人につよく捻じとられたので、いやおうなく伏せていた胸を反らし
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒紗くろしゃほうを着て、卍頭巾まんじずきん黄革きがわ膝行袴たっつけばきに、馬乗り靴という扮装いでたち。そしてむちを逆手に
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すそのみじかい着物と膝行袴たっつけが、一枚ずつ公平こうへいにわたされた。あのおしゃべりの蛾次郎も、口をきく元気もなく、ただいくつもおじぎをつづけて、ぬれた着物をそれに着かえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、官舎から出て来た膝行袴たっつけばきの犬役人や犬仲間いぬちゅうげんが、諸所の犬舎を開け放った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つつ袖の上着も膝行袴たっつけも青黒い木綿の一色で、刀はつる巻の一本差し、みな敏捷びんしょうな者ばかりである。そして事あるたびに、何処へでも飛んでゆく。さながら空へ立つ青鷺にも似ている。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいながら、首をもたげて、武蔵の膝行袴たっつけの上から、ももの肉へ喰いついた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ、あしたはまた、その御主人のお供で、朝から狩場めぐり、お帰りにはまた、庄内川で水馬や水泳のお稽古だろうて。——おかかおれも野駈のがけの支度だぞ。膝行袴たっつけひも草鞋わらじを見ておけよ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこをこう胸落むなおとし! 切ッさきはなお余って、膝行袴たっつけの前まで裂いた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足拵あしごしらえはわらじ膝行袴たっつけ、身軽にしたのはイザという場合の用意だ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、腹巻、膝行袴たっつけの若い武士が、葭簀よしずの内をのぞいて
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)