ちぢみ)” の例文
あれから一ときばかりたって、お綱は、すきやちぢみ小柳こやなぎの引っかけ帯、髪もぞんざい結びに巻きなおし、まるで別人のようになって
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「娘がこれぎり帰って来ませんようだったら、どうしましょう」と、彼女は二、三度も水をくぐったらしい銚子ちぢみの袖で眼を拭いていた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぢき近くの、ちぢみ仲買商人なかがひあきんどの子の新太郎ちやんである。新太郎ちやんは家が貧しかつたので、立派な紙鳶は持つてゐなかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
太物屋ふとものやの番頭からはちぢみ一たん、魚屋の売り子からは鮭一尾、そうして金物屋の手代からは、所帯でも持とうという時に、鍋と釜とを一対ね……
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家の者が驚いて見ているとどこからともなしに越後ちぢみの浴衣と洋傘こうもりがさが飛んで来た。と、竹竿の一つはその浴衣を、一つは洋傘をさして歩いた。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そろひ浴衣ゆかたに白いちぢみ股引ももひき穿いて、何々浜と書いた大きい渋団扇しぶうちは身体からだをはたはたと叩いて居る姿が目に見える様である。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ちぢみのシャツの背中を汗でじっとりにして、掘り初めの時分から見ると、すっかり日やけのした井上が、夏の日永を一刻も惜むようにして働いている。
昔の火事 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
白地にあい縦縞たてじまの、ちぢみ襯衣しゃつを着て、襟のこはぜも見えそうに、衣紋えもんゆる紺絣こんがすり、二三度水へ入ったろう、色は薄くも透いたが、糊沢山のりだくさんの折目高。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いくら八丈島の黄八丈きはちじょうは美しく、小千谷おぢやちぢみは美しいといっても、沖縄ほど多様な多彩な趣きは示しません。誠に圧倒的な仕事であると申さねばなりません。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この寒空にちぢみ単衣ひとえをそれも念入りに二枚も着込んで、……二円貸してくれ。見れば、お前じゃないか。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
庄亮は例の鼠のちぢみの棒縞に、股引の、尻端折の腰手拭と来ているだろう。僕は黒のアルパカで、頭にはハンケチをかぶっていた。二人とも三円五十銭の蝙蝠傘だからな。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
松田さんはしまちぢみ襯衣シャツの上に薄い背広を着ていた。背の低い気軽な人なので、とうてい坑長とは思えなかった。我々と英国人を二所ふたところに置いて、双方へ向けて等分に話をした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等めうとに親しみむつぶものなく、ある年、冬の末つかた、荒栲は織上げしちぢみを山の一つあなたなる里に持行き売らんとするに、越路こしぢの空の習ひにて、まなくときなく降る雪の
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちぢみでは十日町とおかまちの「明石縮あかしちぢみ」もありますが、小千谷の上布じょうふくはありません。江戸時代この方実に見事な仕事を見せました。塩沢しおざわが今はかえって中心であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そしてちぢみの仲買商人になつた今でも、塩沢しほざはとか十日町とをかまちとか小千谷をぢやといふやうな、越後でも山の方の町や村から縮を買入れて来ると、この呉服問屋で買つて貰つてゐたのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
この文章の間に絵がありますの、わたしの描いた絵を見せてあげたいけれど、口で言ってみますと、左の方に猟師の度九郎が炉へ焚火をしながら、ちぢみを売りに行く女房の荒栲あらたえを見返っておりますのよ。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれは茶っぽいちぢみのシャツを着て、麻のズボンをはいていた。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とすっと立って、上緊うわじめをずるりと手繰った、麻の葉絞の絹ちぢみ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「栄坊ちやん、俺、あしたからね、父ちやんについて山の方へちぢみ買ひにゆくだよ。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)