)” の例文
っそりとしたやさおもてに、縁無しの眼鏡がよくうつり、美学の先生といっても、これ以上、美学の先生らしいのはちょっとあるまいと思った。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
客のすくない電車の中は放縦ほうじゅうなとりとめもないことを考えるにはつごうがよかった。彼の頭の中にはっそりした小女こおんなの手首の色も浮んで来た。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
っそりとみがきのかかった皮付きの柱も、葉子に取っては——重い、こわい、堅い船室からようやく解放されて来た葉子に取ってはなつかしくばかりながめられた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
っそりした頭巾のうしろ姿が、眼のまえをさえぎって、およそ、十歩ばかり大通りの方へ向いて。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
接骨木にわどこまでが、そのえだをこのあたらしい白鳥はくちょうほうらし、あたまうえではお日様ひさまかがやかしくりわたっています。あたらしい白鳥はくちょうはねをさらさららし、っそりしたくびげて、こころそこから
かすむ眉、黒い瞳、赤い唇——と次第に道具立がはっきりすると、やがてしなやかな首筋、っそりした肩から、ふくらんだ胸、帯から脚へ流るる線と、くっきり雪の中に浮上うきあがって来るのです。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
っそりした可愛らしい手が、何か持っていたものを急いでテーブルの上へなげ捨てると、四隅よすみに刺繍のついたバチスト麻のハンカチを握りしめた。彼女は腰かけていた長椅子から立ちあがった。
っそりとお立ちでになられました。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
身はそる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その苦渋を顔からっていたのか、はしなく具光の眼と見あった眸は、ッそりとみを描き、頬の薄らあばたまでがこの人特有なぼうとした愛嬌をたたえて、何の屈託くったく顔でもなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓からさす、初冬の午後の余光を横顔に受け、青い大きな眼で、こちらを見ていたが、息ぎれがするらしく、っそりした手を窓枠にかけて身体を支えながら、そろそろとまた腰をおろした。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
年は、お喜代の中の姉のお里ぐらいで、三ツぐらい上であろう。田之助の方から首ッたけになったといわれるくらいな容貌きりょうで、鳥文斎栄之ちょうぶんさいえいしえがく女のような気品があってッそりしていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)