糟粕そうはく)” の例文
これ実に祭司長が述べんと欲するものの中の糟粕そうはくである。これをしも、祭司次長が諸君に告げんとほっして、あえとがめらるべきでない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
前に本居宣長がなかったら、平田篤胤あつたねでも古人の糟粕そうはくをなめて終わったかもしれない。平田篤胤がなければ、平田鉄胤かねたねもない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ファーガスンは来るべき偉大なものを予告し、バアンズは其の偉大なものを成しとげ、私は唯其の糟粕そうはくめたに過ぎぬ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
定家ていか糟粕そうはくをしゃぶるでもなく自己の本領屹然きつぜんとして山岳と高きを争い日月と光を競うところ実におそるべく尊むべく覚えずひざを屈するの思い有之これあり候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
東京の帝國大學には、アイノ語學者を以て任ずる人もあるがすべてがバチエラの糟粕そうはくめてゐるものばかりで、それも半可通はんかつうに滿足してゐること。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
ソコデ私の見る所で、新政府人の挙動はすべて儒教の糟粕そうはくめ、古学の固陋ころう主義より割出して空威張からいばりするのみ。かえりみて外国人の評論を聞けば右の通り。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「いや、徳川時代文学の糟粕そうはくなどを、少しもめないで、明治時代独特の小説をかいている作家がありますよ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いにしえのパリーにおいては、下水道の中にあらゆる疲憊ひはいとあらゆる企図とが落ち合っていた。社会経済学はそこに一つの残滓ざんさいを見、社会哲学はそこに一つの糟粕そうはくを見る。
これ畢竟ひっきょう身を忘れ、国を忘れる仕業で、芸人よりも遥に劣等だ……君がいくら書物を読んだといって、それは文字の糟粕そうはくめたまでで、その内の真味を味わったのではない云々
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
自分のきわめているのは、今の哲学者の見るところによると、欧羅巴文明の糟粕そうはくかも知れない。かの糟粕を究めつつ、自家の醍醐味だいごみも知らないということになると、いい笑い物だ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又或る人は愛の純粋なる表現を欲するが故に前人の糟粕そうはくめず、彼自らの表現手段に依ろうとする。前者はより多く智的生活に依拠し、後者はより多く本能的生活に依拠せんとするものである。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「心なき身にもあはれはしられけり」とか、「その色としもなかりけり」とか、「花も紅葉もなかりけり」とかいう三夕さんせき糟粕そうはくめぬまでも、多くは寂しいということに捉われ過ぎるかたむきがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
一、俳書を読むを以て満足せば古人の糟粕そうはくむるに過ぎざるべし。古句以外に新材料を探討せざるべからず。新材料を得べき歴史地理書等これを読むべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
有っても無くてもいいよまいごとを書いて、これを文芸呼ばわりをし、前人の糟粕そうはくめては小遣こづかいどりをし、小さく固まってはお山の大将をり立てて、その下で小細工をやる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むなしく資本を失うか、しからざればわずかに利潤の糟粕そうはくなむるのみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あなが人丸ひとまろ赤人あかひと余唾よだねぶるでもなく、もとより貫之つらゆき定家ていか糟粕そうはくをしやぶるでもなく、自己の本領屹然きつぜんとして山岳さんがくと高きを争ひ日月と光を競ふ処、実におそるべく尊むべく
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すなわち山陽の山陽たる所以ゆえんであって、彼は漢詩の糟粕そうはくめている男ではえ、むしろ漢詩の形を仮りて日本を歌ったものだ、彼に於て、はじめて醇乎じゅんこたる日本詩人を見るのだ、意気と
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただこれを真似まねるをのみ芸とする後世のやつこそ気の知れぬ奴には候なれ。それも十年か二十年の事ならともかくも、二百年たつても三百年たつてもその糟粕そうはくめてをる不見識には驚きいり候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただこれを真似まねるをのみ芸とする後世の奴こそ気の知れぬ奴には候なれ。それも十年か二十年のことならともかくも、二百年たっても三百年たってもその糟粕そうはくめて居る不見識には驚きいり候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
貞徳は鑑武を祖述せんとしてその糟粕そうはくめたる者といふべし。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)