やつれ)” の例文
施主せしゆ、へい、施主せしゆまをしますと……」となにかまぶしさうなほそうして、うす眉毛まゆげ俯向うつむけた、やつれ親父おやぢ手拭てぬぐひひたひく。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『あなたとおわかれしてから、いろいろ苦労くろうをしましたので、自然しぜんやつれたのでございましょう。』
通り掛るに道のかたはらに親子と見ゆるが休み居たり傳吉は何心なく彼女親を見るといとやつれたるかたちなれども先年家出せし叔母お早に似たりと思ひしゆゑに立戻たちもどり段々樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あらためて顔を見る目も、法師は我ながら遥々と海をながめる思いがした。旅のやつれが何となく、袖を圧して、その単衣ひとえ縞柄しまがらにもあらわれていたのであった。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のがれん爲吉三郎がこしらへ事にて候如何に菊吉三郎と密通みつつういたしおぼえなきならば其通そのとほり早く申上よと急立せきたちけるにお菊は生れしよりはじめて奉行所ぶぎやうしよへ呼出され大勢の中にて吉三郎がいましめられやつれたるを見て涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寝衣ねまきに着換えさしたのであろう、その上衣と短胴服チョッキ、などを一かかえに、少し衣紋えもんの乱れた咽喉のどのあたりへおッつけて、胸にいだいて、時のやつれの見えるおとがいを深く、俯向うつむいた姿なり
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、優柔おとなしく頬被りを取った顔を、と見ると迷惑どころかい、目鼻立ちのきりりとした、細面ほそおもての、まぶたやつれは見えるけれども、目の清らかな、眉の濃い、二十八九の人品ひとがら兄哥あにいである。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
りそうな、串戯じょうだんものの好々爺こうこうやの風がある。が、歯が抜けたらしく、ゆたかな肉の頬のあたりにげっそりとやつれの見えるのが、判官ほうがん生命いのちを捧げた、苦労のほどがしのばれて、何となく涙ぐまるる。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)