稲光いなびかり)” の例文
にん武士ぶし縁側えんがわがってっていますと、やがてかみなり稲光いなびかりがしきりにこって、大風おおかぜのうなるようなおとがしはじめました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「僕は文句なしで無条件でやります。やあ、大群集がわれわれに迫って来ますよ、マネット嬢ミス・マネット。そして僕には彼等が見えます、——あの稲光いなびかりで。」
大音だいおんあげ、追掛おひかけしがたちまちにくもおこり、真闇まつくらになり、大雨たいう降出ふりいだし、稲光いなびかりはげしく、大風おほかぜくがごとくなるおとして座頭ざとうはいづくにゆきしやらむ——とふのである。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
マドンナも大方この手で引掛ひっかけたんだろう。赤シャツが送別の辞を述べ立てている最中、向側むかいがわに坐っていた山嵐がおれの顔を見てちょっと稲光いなびかりをさした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
稲光いなびかりが二ばかり、かすかに白くひらめきました。草をにおいがして、きりの中をけむりがほっとながれています。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
けれども、人魚のむすめは、へいきで、ちかちか光る氷の山の上に腰をのせたまま、かがやく海の上に、いなづま形に射かける稲光いなびかりの青い色をながめていました。
坂本城の余燼よじんは消え、墨の如き湖や四明しめいだけの上を、夜もすがら青白い稲光いなびかりひらめきぬいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文太郎 俺はたった今、水の中で、苦しみながら死にかかった時、頭の中へ稲光いなびかりみてえにキラキラと、いろんなことが思い出されたんだ。俺の気持は、がらりと変った。(ぐったりとなる)
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ひょうが降るわけでもない。稲光いなびかりひとつせず、雨一滴落ちて来ず……。とはいえ、あの混沌こんとんたる天上の闇、昼の日なかに忍び寄るこの真夜中が、彼らを逆上させ、にんじんをちぢみ上がらせたのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
雲の中でぴかりと、稲光いなびかりが光った。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わつ! こわい! 稲光いなびかりが!
ある日、おじいさんは山へ木をりに行きました。にわかにひどい大あらしになって、稲光いなびかりがぴかぴかひかって、ごろごろかみなりしました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もうしきりなし稲光いなびかりがして、かみなりがごろごろ、ひと晩じゅうやめないつもりらしく、鳴りつづけました。やがて、窓がぱあっとあいて、王女は、とびだしました。
それが貴方、着物も顔も手足も、稲光いなびかりを浴びたように、蒼然まっさお判然はっきりと見えました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)