磨硝子すりがらす)” の例文
円い磨硝子すりがらすの笠をかけた朦朧もうろうたるランプの火影に、十九歳のロザリンが洋琴ピアノを弾きながら低唱したあのロマンスのなつかしさ。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
磨硝子すりがらすさるる日の光が、室の中を温室のようにした。窓を開くと、隣家の軒に遮られて僅かではあるが、蒼空が見えた。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
白磨しろみがきの千本格子がぴたりと閉って、寐静ねしずまったように音もしないで、ただ軒に掛けた滝の家の磨硝子すりがらすともしびばかり、瓦斯がすの音が轟々と、物凄い音を立てた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
磨硝子すりがらす、あるは窓枠まどわくれて夕日ゆふひさしそふ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きやくまへをなぞへに折曲をれまがつて、だら/\くだりの廊下らうかかゝると、もと釣橋つりばししたに、磨硝子すりがらす湯殿ゆどのそこのやうにえて、して、足許あしもときふくらつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
にごれる河岸かし磨硝子すりがらすに凭りかかり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
中にも真円まんまる磨硝子すりがらすのなどは、目金をかけたふくろうで、この斑入ふいりの烏め、と紺絣こんがすり単衣ひとえあざけるように思われる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼科がんくわまど磨硝子すりがらす、しどろもどろの
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かき入れなしの磨硝子すりがらすに、鉢から朝顔の葉をあしらって夕顔に見せた処が、少々歪曲ゆがんでせたから、胡瓜きゅうりに見えます、胡瓜に並んで、野郎が南瓜かぼちゃで……ははは。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏の日くれの磨硝子すりがらす
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ところで、その雪の家の胡瓜形きゅうりがた磨硝子すりがらすかかった土間に立ってから、久しくお待たせいたしました。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すわった瞳で、じっと見るや、両手に持った駒下駄をたすきがけに振ったので、片手は源次が横顔を打って退のぞけ、片手は磨硝子すりがらすの戸を一枚微塵みじんに砕いた、蝶吉は飜って出たと思うと
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
富貴竈ふうきかまどが巨人のごとく、仁丹が城のごとく、相対して角を仕切った、横町へ、斜めに入って、磨硝子すりがらすの軒の燈籠の、なまめかしく寂寞ひっそりして、ちらちらと雪の降るような数ある中を、みのを着たさまして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御待合歌枕おんまちあいうたまくら磨硝子すりがらす瓦斯燈がすとうおぼろの半身、せなかに御神燈のあかりを受けて、道行合羽みちゆきがっぱの色くッきりと鮮明あざやかに、格子戸の外へずッと出ると突然いきなり柳の樹の下で、新しい紺蛇の目の傘を、肩をすぼめて両手で開く。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)