白眼しろめ)” の例文
成程然ういえば、何か気に入らぬ事が有って祖母が白眼しろめでジロリとにらむと、子供心にも何だか無気味だったようなおぼえがまだ有る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
男は真面目になった顔を真面目な場所にえたまま、白眼しろめの運動が気に掛かるほどの勢いで自分の口から鼻、鼻からひたいとじりじり頭の上へ登って行く。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おれは破滅で、間違いなしに二重の大破滅だ」参蔵殿は白眼しろめを出した、「もうだめだ、救いようがない、逃亡だ」
剃刀のように鋭い白眼しろめ勝ちの瞳は、殺気をたたえていて、はげしく、どもった。白っぽい単衣絣ひとえがすりに、白縮緬しろちりめんの帯をしめている。勝則の前に、中膝ちゅうひざで坐った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と長く引張ひっぱったところで、つく息と共に汚い白眼しろめをきょろりとさせ、仰向あおむける顔と共に首を斜めに振りながら
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
丁度ちやうど鳩の卵のやうに、白眼しろめ黒眼くろめとはつきりしたやつが、香菜シヤンツアイが何かぶちこんだ中に、ふはふは浮いてゐやうと云ふんです。どうです? 悪くはありますまい。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、ふっと気がついて、手をはなしてみると、あの人は、もう白眼しろめをむいて、ぐったり、頭をうしろへ垂らしてしまったんです。わたしは思わず、ぎょっとしてしまいました。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
蛇ヶ窪の非常汽笛、箒川ほうきがわの悲鳴などは、一座にまさしく聞いた人があって、そのひびきも口から伝わる。……按摩あんま白眼しろめ癩坊かったいの鼻、婆々ばばあ逆眉毛さかまつげ。気味の悪いのは、三本指、一本脚。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此奴こいつかおの黒いこと、鍋墨なべずみ墨汁すみじるとを引っ掻き交ぜて、いやが上に、ところきらわず塗り立て掃き立てたと見えて、光るものはただ両つの白眼しろめばかりの、部厚な唇だけを朱紅に染めてから
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それに対して、反対者は、よしんば出来たところで、針の力である、人間の五体のうち、ただ、眼だけが攻撃の焦点ではないか、その眼へ針を吹いても、白眼しろめの部分ではなんの効もない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸子さちこは去年黄疸おうだんわずらってから、ときどき白眼しろめの色を気にして鏡をのぞき込む癖がついたが、あれから一年目で、今年も庭の平戸の花が盛りの時期を通り越して、よごれて来る季節になっていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
居ても立っても居られないような気になってもじもじして居ると、白眼しろめ勝ちの視線を中にただよわせて胸をおさえていた女中が、私に気が付いたと見えて、あらあらお酒、と私の盃に酒を満たした。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
こう云うとまたも白眼しろめをして人丸の様子をジロジロ見る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あのけはしくも白眼しろめをした雪もよひの空
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ワッと泣き声揚げて此方こちらは逃出す、其後姿を勘ちゃんは白眼しろめで見送って、「ざまア見やがれ!」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
卜斎は最前さいぜんから、そこばかりをじっとにらんでいた。横目づかいの白眼しろめで——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コノ数年来、予ハ白眼しろめガシバ/\充血スルコトガアリ、普通ノ時デモ赤味あかみガ強クナッテイル。瞳孔ノ周囲ヲ注意シテ見ルト、角膜ノ下ニ赤イ細イ血管ガ異様ニ幾筋モ走ッテイルノガ認メラレル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひげ真白まつしろと云はんよりは、寧ろ黄色きいろである。さうして、はなしをするときに相手あいて膝頭ひざがしらかほとを半々はん/\に見較べるくせがある。其時のうごかしかたで、白眼しろめ一寸ちよつとちらついて、相手あいてに妙な心もちをさせる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
白眼しろめむき絶えず笑へり。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)