癇癪持かんしゃくもち)” の例文
彼は自分の性急せっかちに比べると約五倍がたの癇癪持かんしゃくもちであった。けれども一種天賦てんぷの能力があって、時にその癇癪をたくみに殺す事ができた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見る間に太る額の蒼筋あおすじ癇癪持かんしゃくもちの頭痛やみにて、中年以来丸髷まるまげに結いしこと無き難物なれば、何かはもってたまるべき。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると癇癪持かんしゃくもちきみは真二つに斬りさげんと刀のつかに手をかけたのを、最愛のおんなかたわらから止めたので、命だけはたまわって、国外に追放の身となったのである。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
またそんな伯父はきまって癇癪持かんしゃくもちで、怒りっぽいものです。だから、もしそんな人がいて、セエラのひどい様子を見たら、いい気持のするはずはありません。
癇癪持かんしゃくもちの親父のことだから、「間抜け奴! 鼻と耳を拾って来い!」と、頭から怒鳴どなりつけるかも知れない。
宗右衛門は性質亮直りょうちょくに過ぐるともいうべき人であったが、癇癪持かんしゃくもちであった。今から十二年ぜんの事である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等は古びた中折帽を阿弥陀あみだにかぶった、咽喉のどよごれた絹ハンカチを巻いた、金歯の光って眼のするどい、癇癪持かんしゃくもちらしい顔をした外川先生と、強情ごうじょうできかぬ気らしい
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
目元きりゝっとして少し癇癪持かんしゃくもちと見え、びんの毛をぐうっと吊り上げて結わせ、立派なお羽織に結構なおはかまを着け、雪駄せった穿いて前に立ち、背後うしろ浅葱あさぎ法被はっぴ梵天帯ぼんてんおびを締め
三十二三のちょいとい男だ——それと癇癪持かんしゃくもちの用人、石沢左仲の二人が切り盛りしています
まざる史家、癇癪持かんしゃくもちの父親として一生を終りました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、叱ったのは、癇癪持かんしゃくもちらしい若い声だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
僕は意地張いじばりという点において、どっちかというとむしろ陰性の癇癪持かんしゃくもちだから、発作ほっさに心をおそわれた人が急に理性のために喰い留められて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小児こどもの内は間抜けのようだったけれど、すっかり人がかわって、癇癪持かんしゃくもちの乱暴な奴になったと見えるんだよ。……姉さん、年紀としがゆくと変るものかしら。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何、旦那さん、癇癪持かんしゃくもちの、嫉妬やきもちやきで、ほうずもねえ逆気性のぼせしょうでね、おまけに、しつこい、いんしん不通だ。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兄が英語をやって居たから家では少しずつ教えられたけれど、教える兄は癇癪持かんしゃくもち、教わる僕は大嫌いと来て居るから到底とうてい長く続くはずもなく、ナショナルの二位でおしまいになって しまったが
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さん実はね、大木戸の御前が例の串戯じょうだん妖怪談話ばけものばなしをお始めなすって、もとこの邸は旗本の居た所で、癇癪持かんしゃくもちの殿様がおめかけを殺したっさ、久しいものだがその妄念が残っていて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細君はまた魚か蛇のように黙ってその憎悪を受取った。従って人目には、細君が何時でも品格のある女として映る代りに、夫はどうしても気違染きちがいじみた癇癪持かんしゃくもちとして評価されなければならなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お夏さんは癇癪持かんしゃくもちなんだけれど、婦人おんなだけにどうすることも出来ないんですから、癪なことは軍鶏と私とで引受けてるんで、ええ、可うごす、軍鶏と愛吉とで請合いましたと謂うと
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分は癇癪持かんしゃくもちだけれども兄ほど露骨に突進はしない性質であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)