瘋癲ふうてん)” の例文
若しも必ず是れありとせば、其者は必ず瘋癲ふうてんならん。瘋癲なれば之れを刑に處するに足らず。一種の檻に幽閉して可ならんのみ。
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
しかしながら、独逸ドイツの為すところを見れば、あたかも自己の武器を以て自己の命をたたつぶそうという発狂、瘋癲ふうてんの境遇である。
大戦乱後の国際平和 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と説明するように傍の人が言ったが、四辺あたりにかまわぬ大きな声は、悪口をいえば瘋癲ふうてん病院へでもいったように吃驚びっくりさせられた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
割に自由な瘋癲ふうてん病院の一室で、寺内氏はこれだけの物語を私にしてきかせたのである。氏が自殺したときいて私はこれをまざまざと思い出した。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
瘋癲ふうてんは家督になるかならないか。——どんな手蔓てづるをたぐって家督を継いでも、こいつが知れるといっぺんにお取潰しだ。
うけたは、正成のみではない。あめしたみな、どうやら、瘋癲ふうてんにでもかかった気味。——流行はやりの時宗踊じしゅうおどりも笑えまい」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それじゃ瘋癲ふうてん病院だな! 先刻の恐ろしい叫声はありゃ狂人きちがいの声だったんだな」斯う思うと彼は、自分の周章あわて方が、急に可笑しく思われて来た。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
独逸ドイツのある瘋癲ふうてん病院で、妹に看病されながら暮して居た、晩年の寂しいニイチエが、或る日ふと空を見ながら、狂気の頭脳に記憶をたぐつて言つた。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
縛りつけて、瘋癲ふうてん病院にでも入れるべき代物しろものだ!……恋のために自殺するというのならわかってる。裏切った恋人を殺すというのもわかってる……。
「僕は瘋癲ふうてん病院や狂人どもに対しては責任を持ちませんよ」と、ミウーソフがいきなりむかっ腹を立てて答えた。
かれはにこにこ笑いながら、この頃は世間でいろいろ亀阜荘の評判がやかましいこと、左近頼該が瘋癲ふうてん人だとさえうわさされていることなどを冗談のように話した。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これは本より痴愚ちぐ瘋癲ふうてんの類で、三度も生れ代らなければ貧乏人にもなれぬ程の不幸な人で、論外である。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その頃から、パリスカスの主人、カンビュセス王も次第に狂暴きょうぼう瘋癲ふうてんの気に犯され始めたようである。彼は埃及王プサメニトスに牛の血を飲ませて、これを殺した。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ランナア達はその五色の雪を身にあびて、それを蹴立けたてて、瘋癲ふうてん病院の運動会の様に、走りに走った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それでもいかないと今度は自分の着て居る着物を引っ裂いてしまって、その引っ裂いた着物を空に打ち投げるというまるで瘋癲ふうてんのごとき有様で霰を喰い止めることに従事して居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
瘋癲ふうてんでもなければ、それほどにされんでも、今ここで身を退けばまゆを伸べて喜ぶ者がそこらに沢山あることに心附かんでも無いから、心苦しいことは口に云えぬほどで有る、けれど
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
したがって、かの鏡に現われた女の顔に対する私の憧憬の熱もさめ、かの廃宅における怖ろしかった光景の記憶も、単に何かの拍子に瘋癲ふうてん病院を訪問したぐらいの追憶になってしまった。
あるいほかの例をもってするならば元来変態心理と正常な心理とは連続的でありますから人類はすべから瘋癲ふうてん病院を解放するか或はみんな瘋癲病院に入らなければいけないと斯うなるのであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これはスコットランドの話で我邦には応用し難いかも知れぬが、同地の瘋癲ふうてん病院で調査した処によれば、統計上狂者には普通の人よりも眼の色が薄く髪の色が濃いのが多いという事である。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
又は瘋癲ふうてん、脳病院じゃと。四角四面の看板ひろげて。意匠らした玄関構えじゃ。高価たかい診察、治療のしろだよ。入院、看護の料金取り立て。肩で風切る精神病医は。どんな仕事をしているものかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
瘋癲ふうてん病者と同じことだ。
波子 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
しかもその人は、生れながらの病弱で、ちょうじてからも瘋癲ふうてんの持病があり、周囲はそれも知りぬいていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へえなんとも申しわけがござんせん、あれは瘋癲ふうてんのお松というあばずれ者で、腹を立てると相手の見境がつかなくなる性分でござんす、どうかまあ旦那お腹立ちでもござんしょうがげて一つ」
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無論、狂人、瘋癲ふうてん病者も。申訳もうしわけだけ居るには居るが。中にまじった優れた人物。英雄、豪傑、天才なんどを。白い服着た鹿爪しかつめらしい。キチガイ地獄の牛頭馬頭ごずめずどもが。手取り足取りして行くあとから。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、産みの子の瘋癲ふうてんには人いちばい苦労をしてきた母だけに、その祈りも切だったにちがいない。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの小児病とも瘋癲ふうてんともつかない物狂いで、職はすでに退いていたはずであるが、いぜん近ごろでは、その軍令政令のすべてが、彼の裁可に発しられているふうだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驕慢な瘋癲ふうてんの君が、いまは神妙な、いかにも素直な君に見えたからだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)