疳走かんばし)” の例文
頭に籠を載せた魚賣の女の疳走かんばしツた呼聲やらがたくり車の喇叭らつぱの音やら、また何やらわめく聲叱る聲、其等全く慘憺たる生活の響が混同ごつちやになツて耳に入る。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
須磨子が見つけた額には、気取つた筆で無意味な文字を二三字なぐがきにして、渓水と落款があつた。須磨子は、疳走かんばしつた声で「ちよいと先生」と呼んだ。
そう疳走かんばしった声でいいながら葉子は時々握っている岡の手をヒステリックに激しく振り動かした。泣いてはならぬと思えば思うほど葉子の目からは涙が流れた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
細い流のある辺に高い台を拵えて、男が頻りに語っているのは、宮本武蔵みやもとむさしの試合か何かのようでした。傍の女の三味線は、そのつなぎに弾くだけで、折々疳走かんばしった懸声かけごえをします。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
漸次だん/\ひゞき消滅せうめつして、隙間すきまもとめて侵入しんにふするさむさのくははつた。何處どこかでこほつてたつちひゞくやうなにはとりこゑ疳走かんばしつてきこえるとよるのき隙間すきまからあかるくなつた。勘次かんじはおつぎをおこした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
高い悲鳴をあげる代りに、疳走かんばしッた声でこうののしッたのは、かなり気の勝った娘らしい。つかまれた手に爪を立てながら、切通きりどおしの広い前後をふりかえって、早く誰か来る人影はないかと必死に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると馬は——馬車をいていた葦毛あしげの馬はなんとも言われぬいななきかたをした。何とも言われぬ?——いや、何とも言われぬではない。俺はその疳走かんばしった声の中に確かに馬の笑ったのを感じた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また疳走かんばしった声の下、ちょいとしゃがむ、とはやい事、筒服ずぼんの膝をとんと揃えて、横から当って、おんな前垂まえだれ附着くッつくや否や、両方の衣兜かくしへ両手を突込つっこんで、四角い肩して、一ふり、ぐいと首を振ると
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぎょっと水でもあぴたように長国の声がふるえて疳走かんばしった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「病気だって?」と藤尾の声は疳走かんばしるほどに高かった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗さにまぎれて倉地に涙は見せなかったが、葉子の言葉は痛ましく疳走かんばしっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
疳走かんばしった声で近侍を顧みたのは宮津の太守丹後守であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)