かく)” の例文
旧字:
こういうかくの多い字が一杯並んで、字づらが薄黒く見えるような頁が、何か変化へんげと神秘の国の扉のように、幼い心をそそった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
一六居士の筆法は、かくを作るとき、一画一画筆先をはなし改めて更に筆を入れる癖が特徴でしたが、私はそういうところが気に入りませんでした。
能書を語る (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
鋲の色もまた銀色である。鋲の輪の内側は四寸ばかりの円をかくして匠人の巧を尽したる唐草からくさが彫り付けてある。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
物心がついてまもなくあの大震災があった。震災は私たち東京人の生活に一時期をかくしたが、私としても自分の少年の日は震災と共に失われたという感が深い。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
日本の探偵小説界は一時代をかくしたが、それは大方御存じの通りで、捕物小説の方は、それからまた十年も遅れて、ようやくあんよが出来るといった有様であった。
この千変万化を八卦はっけかくし、八卦を分てば六十四、六十四の卦は結局、陰陽の二元に、陰陽の二元は太極たいきょくの一元に納まる、というのが易の本来だと承りました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「弧光燈」の名が巧まずして明治初年代の、なんぞといふとかくの多い「字」が幅を利かせた世態を思はせて、面白いやうに、別に「現華燈」といふ文字も残つてゐる。
東京の風俗 (新字旧仮名) / 木村荘八(著)
「馬は濡れ」の句は時雨のある地をかくして降る光景をいったので、同じ一つの野でもそこにいる馬は濡れ、かしこにいる牛には日が当たっているというのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ああ、今やわれら二人の間をかくして、無辺際の空より切り落とされたる暗澹たる灰色の冷たい幕。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その抱負は、このときはもう彼のはらにも充分な確信をもって描かれていた。むしろ今日をかくして過去のものは過去に帰してゆく天意にたいして、新たな励みと感激を覚えた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上等の内にて大臣と小姓組とを比較し、下等の内にて祐筆ゆうひつと足軽とを比較すれば、その身分の相違もとより大なれども、あきらかに上下両等の間に分界をかくすべき事実あり。すなわちその事実とは
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
第一、漢字は字数多くして記憶に不便なり、第二、漢字はかく多くして書くに不便なり、第三、漢字は字数多くして活字を拾ふ事等に不便なり、第四、漢字は画多くして細字を見るに不便なり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
今年、田舎の二十日はつか正月がすんだ頃、アヤが、下手な、それでいてかくのはっきりした字で、祖母ちゃんはこの頃死にたがってばかりいます、死ぬかと思って私は心配ですという手紙をよこした。
小祝の一家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
坂道にかかってからは提燈ちょうちんが見えたので少し元気が出た。まもなくおいなりさまへたどりついた。二人はそこに用意してあった筆をとって姓名をしたためた。花岡照彦はかくが多いから損だった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
淑女巨人と一堂につどい思想を交換し事業をかくするは今汝の及ばざる所、しかれどももし汝にして四十八文字もんじを解するを得ば、聖書なる世界文学の汝とともにあるなり、以て汝をはげまし汝をなかしむべし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
この符の清浄なかくを見ているうちに、440
銃眼じゅうがんのある角を出ると滅茶苦茶めちゃくちゃに書きつづられた、模様だか文字だか分らない中に、正しきかくで、ちいさく「ジェーン」と書いてある。余は覚えずその前に立留まった。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十二曲の交響曲詩シンフォニック・ポエムを書いて、楽壇に大きな時代をかくし、近代音楽の黎明れいめいの鐘を高らかにき出したフランツ・リスト、——一面においてピアニストとして前人未踏の境地をひら
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
黄塔こうとうまだ世にありし頃余が書ける漢字のかくあやまりを正しくれし事あり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)