画家ゑかき)” の例文
旧字:畫家
その春挙氏は画家ゑかきである。画が頼みたい人にそつと内証ないしようでお知らせする。氏の潤筆料に黄金こがねなどは無用の沙汰で、兎角は石の事/\。
の寺のも矢張同じ型ではあつたが、多少創意のある画家ゑかきの筆に成つたものと見えて、ありふれた図に比べると余程活々いき/\して居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
……とその大湯おほゆ温泉をんせんで、おしろひのはなにもない菜葉なつぱのやうなのにしやくをされつゝ、画家ゑかきさんがわたしたちにはなしたのであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さうしてゐる所へ、一人の画家ゑかきさんが参りました。この画家さんは妙な画家で、何一つ自分で考へ出してはけないのです。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
その一本は殆んどかつて、うへの方には丸裸まるはだか骨許ほねばかり残つた所に、夕方ゆふがたになると烏が沢山集まつて鳴いてゐた。隣にはわか画家ゑかきんでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「なに、先生々々と拝み倒す日には何でもあらへん、一体画家ゑかきさんたら、みんな『先生』と『舞妓まひこはん』が大好きやさかいにな。」
あくる朝、愚助ぐすけが学校へ行く前に、また画家ゑかきさんに話しました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
画家ゑかきから見ると、世界中の物は——少くとも芽張り柳だけは、神様が特別に自分達のために拵へてくれたものに相違なかつたのだ。
画家ゑかきさんが参りました。そして問ひました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
岩野泡鳴氏は文士や画家ゑかき片手間かたでまの生産事業じごふとしては養蜂ほどいものは無いといつて、一頻ひとしきりせつせと蜜蜂の世話を焼いてゐた。
ある画家ゑかきの使つてゐるあかの色が、心憎いまで立派なので、仲間は吸ひつけられたやうにそのの前に立つた。そして不思議さうに訊いた。
夫人と二人で紙治かみぢの芝居をる位さばけた画家ゑかきの事だ、きつと面白い気の利いた談話はなしがあるだらうと、犀水氏は楽みにして出かけたものだ。
流石に商人あきうどは目が敏捷はやかつた。絵は売る為めに註文したので、画家ゑかきに会つた為に売値を崩すやうな事があつても詰らなかつた。
監獄のなかへでものこ/\いて来るものなので、この二人の画家ゑかきがそれがために伯耆くんだりまで往つたところで、少しもとがめる事はない。
洋画家中村不折氏の玄関には銅鑼どらつるしてある。案内を頼む客は、主人の画家ゑかきの頭を叩く積りで、この銅鑼を鳴らさねばならぬ事になつてゐる。
この画家ゑかきは、今日まで二見が浦から少からぬ画料をあげてゐるので、内々ない/\この島の地主の積りで居たのかも知れなかつた。
「それは有難う。」画家ゑかきは一寸頭を下げる真似をしたが、急に真面目くさつた顔になつて、「そしてその画が御返礼に貴女あなた接吻キツスでも致しましたかね。」
洋画家満谷みつたに国四郎氏が名代の謡曲天狗なのは、画家ゑかき仲間では知らぬ人もない。氏にを頼みに出掛けるものは、何をいても先づその謡曲を聴くだけの辛抱をたなければならない。
面白いのは、そこの主人が軸物よりも屏風よりも、もつとひど贋物がんぶつである事だ。——京都の画家ゑかき贋物いかものこさへる事がうまいやうに、京都の女は贋物いかものを産む事が上手だ。いづれにしても立派な腕前である。
贋物 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)