生欠伸なまあくび)” の例文
「ふん Marius the Epicurean か。」と、冷笑するような声を出したが、やがて生欠伸なまあくびを一つみ殺すと
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
侍坐の酒井、奥平、本多などのともがらは、主人が生欠伸なまあくびをこらえているていを察し、信雄のの過ぎた好意をこう防ぎにかかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おお、参ってみようぞ。要らぬ詮議立てじゃが、この木の芽どきに生欠伸なまあくびばかりしているも芸のない話じゃからな。ちょっとのぞいてみるか」
俎板まないたとんとん庖丁チョキチョキ、出放題な、生欠伸なまあくびをして大歎息を発する。翌日あくるひの天気の噂をする、お題目を唱える、小児こどもを叱る、わッという。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八重子は眉根をぴくりとさして、何とも言わなかったが、彼がその日の書信に眼を通し終って生欠伸なまあくびをかみ殺してる頃、不意に彼女の方から尋ねかけた。
人間繁栄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
生欠伸なまあくびを噛みしめながら土間におりて行くと、その足元にどたりと犬の死骸が落ちた。ドアの外から支那服が投げ込んだのだ。彼は吃驚びっくりして、飛び退いた。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
理窟をいふ間で手を叩いて大きく笑つたり、説諭を聞く間で生欠伸なまあくびをしてこくりこくりと居睡いねむりをするも好し。
この一間ひとまの置炬燵に猫を膝にしながら、所在しょざいなげに生欠伸なまあくびをかみしめる時であるのだ。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人見は痩せてひょろ長い体を机の前に立ちあがらせると、気持の悪い生欠伸なまあくびをした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「あゝうつくしい」と小声に云つて、すぐに生欠伸なまあくびをした。三四郎は自分が如何にも田舎ものらしいのに気が着いて、早速首を引き込めて、着坐した。男もつゞいて席に返つた。さうして
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
コン吉とタヌの二人が、しきりにとみこう見するが勇気凛々りんりんたるところがない。毛のつやも悪くなり、しきりに生欠伸なまあくびをして、よだれを流す有様はなかなかなまや愚かの修業でなかったことがわかる。
二人は異常な圧迫感に、食事も摂らず、眠りもせず、際限もなく生欠伸なまあくびをしました。淡路から東京へ私は一年に三四度ずつは往復しますが、後にもさきにもこんなに遠いと思った事がありません。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
下りて行きかけるおくみに生欠伸なまあくびじりにお言ひつけになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
生欠伸なまあくびをする声が内部でした。
山峡新春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その後も主水之介が毎日にちを、どんなに生欠伸なまあくびばかり連発させて退屈していたか、改まって今更説明する必要がない位のものでしたが、しかし
弁馬べんまは、寝床の上に、腹ばいになり、まだ一皮寝不足のまくかぶっている頭脳あたまを、頬杖ほおづえに乗せて、生欠伸なまあくびをした。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脊の低い影のごときばあさんが、ちょうど通りかかった時、生欠伸なまあくびを一つして、「おお寒、寒、寒やの。……ありがとうござります。なまいだなまいだ。」とつぶやくのを聞いた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、お民はランプの向うに長ながと足を伸ばしたまま、生欠伸なまあくびをしてゐるばかりだつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ああ美しい」と小声に言って、すぐに生欠伸なまあくびをした。三四郎は自分がいかにもいなか者らしいのに気がついて、さっそく首を引き込めて、着座した。男もつづいて席に返った。そうして
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうしたのさ、お前さん、だから私ゃあ、露八ってえ男に、つくづく、生欠伸なまあくびが出てしまうだろうじゃないか。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕白もののとおウ九ツ、十一二なのをかしらに七八人。春の日永に生欠伸なまあくびで鼻の下を伸している、四辻の飴屋の前に、押競饅頭おしくらまんじゅうで集った。手に手に紅だの、萌黄もえぎだの、紫だの、彩った螺貝ばい独楽こま
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めしいと女の足のおそさにも、次第にんで来たていで、いまも母子おやこの後ろにたたずみ、生欠伸なまあくびをかみころしていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折ふし、大将ノ宮は、奥まった閣の内で、この春の日をしょざいもなく、生欠伸なまあくびをもよおしていらっしゃるときだった。これや、高毬こうきゅうの開運の目であったのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この日も、家康は、信雄の長居ながいを退屈そうに、生欠伸なまあくびをかみころしているだけだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかなろうと多寡たかをくくって、先刻さっきから、師の清十郎の顔より、久しく会わないお甲の顔のほうを、努めて、想像にのぼせていたが、それにも限度があるので、また、生欠伸なまあくびに襲われて
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)