珈琲コオヒイ)” の例文
我々四人は、又久米の手製の珈琲コオヒイを啜りながら、煙草の煙の濛々もうもうとたなびく中で、盛にいろんな問題をしやべり合つた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
されば一べいの菓子、一さん珈琲コオヒイに、一円、二円となげうちて、なおも冥加に余るとなし、我も我もと、入交いりかわり、立替る、随喜のともがら数うるにうべからず。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃まで電気を点けることも忘れ珈琲コオヒイの一杯、麪包パンの一片を取ることすらも忘れ、閉め切った部屋の蒸し暑さも忘れて、私は凝乎じっと机にもたれていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
ずつと向うの方には朝鮮人も起きて來て外を見て居るやうであつた齋藤氏は朝寢坊をしたと云つて、八時過に食堂へ行くのをさそひに來た。パンと珈琲コオヒイだけの朝飯に一人前に拂ふのが五十錢である。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ずつとむかうの方には朝鮮人も起きて来て外を見て居るやうであつた。斎藤氏は朝寝坊をしたと云つて、八時すぎに食堂へくのを誘ひに来た。パンと珈琲コオヒイだけの朝飯あさはん一人前ひとりまへに払ふのが五十銭である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
やはらかに誰がみさしし珈琲コオヒイぞ紫の吐息ゆるくのぼれる
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
木村少佐は葉巻を捨てて、珈琲コオヒイ茶碗を唇へあてながら、テエブルの上の紅梅へ眼をやって、独りごとのようにことばを次いだ。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
飯を食べに行ってもよし、ちょいと珈琲コオヒイに菓子でもよし何処どこか茶店で茶を飲むでもよし、別にそれにも及ばぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と探偵はその時ロザリオ青年の運んで来た珈琲コオヒイの一杯に喉を潤した。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうして、用を聞きに来た給仕に珈琲コオヒイを云いつけると、思い出したように葉巻を出して、何本となくマチをった揚句あげく、やっとそれに火をつけた。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
珈琲コオヒイにいたしましょうか。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
珈琲コオヒイにほひ、ボイの註文を通す声、それからクリスマストリイ——さう云ふ賑かな周囲の中に自分はにがい顔をして、いやいやその原稿用紙と万年筆とを受取つた。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
珈琲コオヒイを。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりその珈琲コオヒイでものんで、一しよに出かけよう。さうして、あの電燈の下で、ベエトオフエンでも聞かう。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
成瀬も今年の夏、日本アルプスへ行つた時の話を書きかけてゐると云ふ事だつた。それから三人で、久米の拵へた珈琲コオヒイを飲みながら、創作上の話を長い間した。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「さつきね、あなた、ゼンマイ珈琲コオヒイとかつてお客があつたんですがね、ゼンマイ珈琲つてあるんですか?」
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで珈琲コオヒイが尽きたのを機会しおにして、短くなった葉巻を捨てながら、そっとテエブルから立上ると、それが静にした心算つもりでも、やはり先生の注意をみだしたのであろう。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、絶望的な勇気を生じ、珈琲コオヒイを持つて来て貰つた上、死にもの狂ひにペンを動かすことにした。二枚、五枚、七枚、十枚、——原稿は見る見る出来上つて行つた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かちやりと云つたのは、珈琲コオヒイさじが手から皿の上へ落ちた音らしい。自分は黒いモオニングを着た容貌魁梧くわいごな紳士と向ひ合つた儘、眼をいて夢を見てゐたのである。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから一番奥のテエブルの前に珈琲コオヒイの来るのを待つことにした。僕の向うには親子らしい男女が二人坐つてゐた。その息子は僕よりも若かつたものの、殆ど僕にそつくりだつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
のみならず彼の勧めた林檎りんごはいつか黄ばんだ皮の上へ一角獣の姿を現してゐた。(僕は木目もくめ珈琲コオヒイ茶碗の亀裂ひびに度たび神話的動物を発見してゐた。)一角獣は麒麟きりんに違ひなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしはなんとも返事をしずににほひのない珈琲コオヒイすすつてゐた。けれどもそれは断髪のモデルに何か感銘を与へたらしかつた。彼女は赤いまぶたもたげ、彼女の吐いた煙の輪にぢつと目をそそいでゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一碗の珈琲コオヒイと一本の葉巻とに忙しさを忘れて、のどかな雑談にふけっていた。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「結構な珈琲コオヒイ茶碗でございます」などと云ふ言葉は、西洋小説中にも見えぬやうである。それだけ日本人は芸術的なのかも知れぬ。或はそれだけ日本人の芸術は、こまかい所にも手がとどくのかも知れぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ゼンマイ珈琲コオヒイつてこれからこしらへるんでせう。」
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)