片々へんぺん)” の例文
郁治はどうせそんな片々へんぺんたるものを出したって、要するに道楽に過ぎんのだからやめてしまうほうが結局いいしかただと賛成する。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
世を弄ぶつもりの彼や純友一味のともがらも、結局は、時代の風に、片々へんぺんの影を描いては消え去る落葉の紛々ふんぷんと、何ら異なるものではなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初めは呻吟しんぎん、中頃は叫喚きょうかん、終りは吟声ぎんせいとなり放歌となり都々逸どどいつ端唄はうた謡曲仮声こわいろ片々へんぺん寸々すんずん又継又続倏忽しゅっこつ変化みずから測る能はず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
片々へんぺんになったのや、継ぎ合わせてみるとどうやら一つの円い輪郭を成すようなものばっかり、ついに瓦々で玉手箱の底を払ってしまうと、お蘭どのが白っちゃけて
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
疾風しつぷうかなら落葉おちば散亂さんらんせしめて、とほえながらはしるにしても、片々へんぺんたる落葉おちばひろ區域くゐきことごとおもかげをもとゞめないで消滅せうめつしてしまはねばらぬのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
図中の旅僧は風に吹上げられし経文きょうもんを取押へんとして狼狽ろうばいすれば、ひざのあたりまですそ吹巻ふきまくられたる女の懐中よりは鼻紙片々へんぺんとして木葉このはまじわり日傘諸共もろとも空中に舞飛まいとべり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雲飛うんぴ許可ゆるしを得て其片々へんぺん一々ひとつ/\ひろつて家に持歸もちかへり、ふたゝ亡父なきちゝはかをさめたといふことである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
又われ等は、盲目的信仰の価値にきては何事も知らない。むろん、素直に真理を受け入れ、片々へんぺんなる疑心暗鬼のわずらいから超脱する事ははなはだ尊い。それは神心の現れで必ずや天使の守護に浴し得る。
『仮面の由来』、これもまた片々へんぺんたる小冊子である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
魔女ははうきまたがりながら、片々へんぺんと空を飛んで行つた。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
四方あたり幽翠ゆうすいな峰で、散り残った山ざくらが白く、七堂伽藍がらんは、天野川の渓流がめぐるふところ谷にあり、山門へ渡る土橋から下をのぞくと、峰の桜が片々へんぺんと流れにせかれて落ちてゆく。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)