ふか)” の例文
見れば郡視学は巻煙草をふかし乍ら、独りで新聞を読みふけつて居る。『失礼しました。』と声を掛けて、其側そのわきへ自分の椅子を擦寄せた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
平次は相變らず赤蜻蛉あかとんぼの亂れ飛ぶのを眺め乍ら、鐵拐仙人てつかいせんにんのやうに粉煙草の煙を不精らしくふかすのでした。女房のお靜は、貧しい夕食の仕度に忙しく、乾物ひものを燒く臭ひが軒に籠ります。
好きな巻煙草まきたばこをもそこへ取出して、火鉢の灰の中にある紅々あかあかとおこった炭のほのおを無心にながめながら、二三本つづけざまにふかして見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平次は相変らず赤蜻蛉あかとんぼの乱れ飛ぶのを眺めながら、鉄拐仙人てっかいせんにんのように粉煙草の煙を不精らしくふかすのでした。女房のお静は、貧しい夕食の仕度に忙しく、乾物ひものを焼く臭いが軒にこもります。
次第に周囲あたりはヒッソリとして来た。正太は帰ることを忘れた人のようであった。叔父が煙草をふかしている前で、正太は長く小金の耳を借りた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多忙いそがしがっている人に似合わず、達雄はガッカリしたように坐って、た煙草をふかし始めた。何となく彼は平素ふだんのように沈着おちついていなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その度に三吉は病室の外へ出て、夏めいた空の見える玻璃戸ガラスどのところで巻煙草をふかした。白い制服を着けた看護婦は長い廊下を往来ゆききしていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
感じてもらうより外に仕方の無いような領分があった。岸本はある点までは輝子の言うことも聞いて見たいと思って、黙って煙草をふかしていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
都会の方から来た頃から見ると、髪なども長く延ばし、憂鬱な眼付をして、好きな煙草をふかし燻し学士の話に耳を傾けた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうお種は言いかけたが、興奮のあまり声が咽喉のど乾干ひからび付いたように成った。豊世もしゅうとめの側に考深い眼付をして、女持の煙管きせるで煙草をふかしていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
煙草好きな彼は更に新しい紙巻を取出して、それをふかして見せて、自分は今それほど忙しくないという意味を示したが、原の方ではそうもらなかった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と呼び留められて、釜形帽と鳥打帽と一緒に、石垣にりながら煙草をふかし始めた。女二人は話し話し働いた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「三吉はえらく煙草をふかすように成ったナ」と森彦はすこし顔をシカめた。この兄は煙草も酒もやらなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ういふ銀之助の言葉は深く対手の注意を惹いた。校長と郡視学の二人は巻煙草をふかし乍ら、奈何どう銀之助が言出すかと、黙つて其話を待つて居たのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其時迄、黙つて二人の談話はなしを聞いて、巻煙草ばかりふかして居た準教員は、唐突だしぬけ斯様こんなことを言出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ずっと以前には長い立派なひげいかめしそうにはやした小父さんであった人がそれをり落し、涼しそうな浴衣ゆかた大胡坐おおあぐら琥珀こはくのパイプをくわえながら巻煙草をふかし燻し話す容子ようす
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学士は私と相対さしむかいに腰掛けて、私に煙草をすすめ自分でもそれをふかしながら、医局のものは皆な私の子供のことを気の毒に思うと言って、そのことは病院の日誌にも書き、又
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は好きな煙草たばこを取出した。それをふかし燻し園子との同棲どうせいの月日のことを考えて見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
豊世は姑から細い銀の煙管きせるを借りて、前曲まえこごみに煙草をふかしてみながら、話を聞いている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おげんは娘から勧められた煙管の吸口を軽くみ支えて、さもうまそうにそれをふかした。子の愛におぼれ浸っているこの親しい感覚は自然とおげんの胸に亡くなった旦那のことをもび起した。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お新は電燈に映るコップの中の酒を前に置いて、その間には煙草もふかした。山本さんが行って来た方の長江の船旅の話なぞは、彼女を楽ませた。山本さんと違って、そう遠慮ばかりしていなかった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お牧とお新は火鉢の側で、旅らしく巻煙草なぞをふかし燻し話した。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相川は巻煙草をふかしながら
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)