枇杷びは)” の例文
僕は室生に別れたのち、全然さういふ風流と縁のない暮しをつづけてゐる。あの庭は少しも変つてゐない。庭の隅の枇杷びはの木は丁度ちやうど今寂しい花をつけてゐる。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひなたの枇杷びはの花に来る蜂の声と、お宮の杉のうへと宝蔵倉のむねにわかれて喧嘩けんくわをしてゐる烏の声のほかは何もきこえないくらゐしづかにすぎていきました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
春さき、牡丹色ぼたんいろの花が咲いた躑躅を思ひ出して、昔のことが、まるで昨日のやうに思へた。猫は暫くしてから、のそのそとものうげに垣根のそばの、枇杷びはの木の下をくゞつて外へ出て行つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
マーキュ はて、こひめくらならまと射中いあてることは出來できまい。今頃いまごろはロミオめ、枇杷びわ木蔭こかげ蹲踞しゃがんで、あゝ、わし戀人おてきが、あの娘共むすめども内密ないしょわらこの枇杷びはのやうならば、なんのかのとねんじてよう。
いまがはなころの、裏邸うらやしき枇杷びはかとおもふが、もつとちかい。屋根やねにはまい。ぢき背戸せどちひさな椿つばきらしいなと、そつと縁側えんがはつと、その枇杷びははうから、なゝめにさつとおとがして時雨しぐれた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
持つてゐた枇杷びはの實を投げ棄てて、行きなり妻の膝の上にどつかと馬乘りに飛び乘り、そして、きちんとちがへてあつた襟をぐつと開き、毬栗頭いがぐりあたまを妻の柔かい胸肌に押しつけて乳房に喰ひついた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
枇杷びはのたねをばのみこんだ。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
土は枇杷びはいろ はへく。
香もなき枇杷びはの花に來て
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しきりやぶまへにある枇杷びは古木ふるき熊蜂くまばち可恐おそろしおほきをかけた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
枇杷びは若葉わかばをたべたので