未亡人びぼうじん)” の例文
「ただ年齢ばかりじゃないのよ。境遇の変化よ。娘が人の奥さんになるとか、奥さんがまた旦那様だんなさまくなして、未亡人びぼうじんになるとか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
綾子が夫、在世のみぎりは伯のために無二の忠臣なりければ、それが死去せしのち未亡人びぼうじんに目を懸けたまい、深川家一切の後見をせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四カ月半ばかりの後、或人の世話で、優善は本所緑町の安田という骨董店こっとうてん入贅にゅうぜいした。安田の家では主人礼助れいすけが死んで、未亡人びぼうじんまさが寡居していたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ねんねんゆめぎ、未亡人びぼうじん操行さうかうくわんして誰一人たれひとり陰口かげぐちものもなかつた。まづしくはあつたけれど彼女かのぢよ家柄いへがらもよかつたので、多少たせう尊敬そんけい心持こゝろもちもくはへて人々ひと/″\彼女かのぢよ信用しんようした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
仮令たとえ小村こむらでも村方を離れて知らぬ他国へ参りますものは快くないもので、ことには年を取りました惣右衞門の未亡人びぼうじんが、十歳になる惣吉という子供の手を曳いて敵討かたきうちの旅立でありますから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひとりはまだ若い婦人ですが、ひとりは年をとっていました。ちょっとみると、お客のなかのお年よりのお嬢さん、または未亡人びぼうじんの奥さんのお迎えに来て、待っている女中かとおもうでしょう。
「……プーッ……馬鹿にしちゃいやよ。勿体もったいなくも歌原男爵の未亡人びぼうじん様よ」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上役うわやくや同僚は未亡人びぼうじん常子にいずれも深い同情をひょうした。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は上さんから、その家には未亡人びぼうじんと一人娘と下女げじょよりほかにいないのだという事を確かめました。私は閑静で至極しごく好かろうと心のうちに思いました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
為隣は寛保かんぽう元年正月十一日に家を継いで、二月十三日に通称の玄春げんしゅんを二世玄瑳げんさと改め、翌寛保二年七月二日に歿し、跡には登勢が十二歳の未亡人びぼうじんとしてのこされた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
前面むかいの喫茶店は、貴婦人社会に腕達者の聞え高き深川子爵何某なにがし未亡人びぼうじん綾子あやこといえる女丈夫にてこの会の催主なり。三令嬢一夫人をしたがえて、都合五人の茶屋女、塗盆ぬりぼん片手に「ちょいと貴下あなた。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は未亡人びぼうじんに会って来意らいいを告げました。未亡人は私の身元やら学校やら専門やらについて色々質問しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
未亡人びぼうじん、老父母には扶持が与えられる。家屋敷を拝領して、作事までもかみからしむけられる。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私はそれまで未亡人びぼうじん風采ふうさいや態度からして、このお嬢さんのすべてを想像していたのです。しかしその想像はお嬢さんに取ってあまり有利なものではありませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥さんが未亡人びぼうじんだということを、この時純一は知った。そして初めて逢った自分に、宅へ本を見に来いなんぞと云われるのは、一家の主権者になっていられるからだなと思った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
抽斎の歿した跡には、四十三歳の未亡人びぼうじん五百を始として、岡西氏のしゅつ次男矢島優善やすよし二十四歳、四女くが十二歳、六女水木みき六歳、五男専六せんろく五歳、六男翠暫すいざん四歳、七男成善しげよし二歳の四子二女が残った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御藤さんがまだ若い未亡人びぼうじんであった頃、何かの用で扱所あつかいじょへ出なければならない事の起った時、島田はそういう場所へ出つけない女一人を、気の毒に思って、色々親切に世話をしてったのが
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)