揉合もみあ)” の例文
川留かわどめか、火事のように湧立わきた揉合もみあう群集の黒山。中野行を待つ右側も、品川の左側も、二重三重に人垣を造って、線路の上まで押覆おっかぶさる。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翁はこれをかいやり棄てて、なほも王を引寄せむとするに、王はふりかへりて組付き、かれこれたがひに声だに立てず、暫し揉合もみあひたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
らば、然らば、を双方で言つてしまつたから、論は無い、後は斫合きりあひだ。揉合もみあひ押合つた末は、玄明の手引てびきがあるので将門の方が利を得た。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
遁出にげだすのを、もう是までと覚悟を決めて引戻す長二の手元へ、お柳は咬付かみつき、刄物をろうと揉合もみあう中へ、よろめきながら幸兵衞が割って入るを、お柳が気遣い
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくしこれにはすこぶ閉口へいこうしたが、どつこひてよ、と踏止ふみとゞまつて命掛いのちがけに揉合もみあこと半時はんときばかり、やうやくこと片膝かたひざかしてやつたので、この評判へうばんたちま船中せんちゆうひろまつて、感服かんぷくする老人らうじんもある
万平は拾わせまいとして又揉合もみあった。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あと三個も、補助席二脚へ揉合もみあって乗るとひとしく、肩を組む、頬を合わせる、耳を引張ひっぱる、真赤まっか洲浜形すはまがたに、鳥打帽を押合って騒いでいたから。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、午飯ひるのおあつらえが持出されて、湯上りの二人と向合う、こちのあらいが氷に乗って、小蝦こえびと胡瓜が揉合もみあった処を見れば無事なものです。しかも女連おんなれんはビイルを飲む。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ夫人は一夜ひとよの内に、いたおもやつれがしたけれども、翌日あくるひ、伊勢を去る時、揉合もみあ旅籠屋はたごやの客にも、陸続たる道中にも、汽車にも、かばかりの美女はなかったのである。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いが餅、饅頭の大づつみを、山媽々やまあばの籠の如くに抱いて戻ると、来合わせた電車——これが人の瀬の汐時で、波を揉合もみあっていますのに、晩飯前で腹はすく、寒し……大急ぎで乗ったのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
づかいをあせる船頭の様子も仔細しさいありげで、は深し、潮も満ちて不気味千万、いい合わせたように膝を揉合もみあい、やみをすかすと、心持、大きな片手で、首尾の松を拝んだような船の舳に、ぼっと
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)