かい)” の例文
彼は、云い終ると、すぐ自身の馬の後脚を折敷かせ、手綱をかいくり、激流へいかだを下ろしてゆくように、ざっと絶壁を落して行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかしタッタ今聞えたのは確かに爆薬ダイナマイトの音だ。ほかに船が居ないから貴様達に違いあるまい」と睨み付けると頭をかいてセセラ笑いながら
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
考えることでごわりまする……とかいつまんで謂えば、自分はいまだ一面識も無いから、門生の主税から紹介をして貰いたいと言うのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細つこい瘠せ身代でゐながら些と海軍力のあるのを鼻に掛けて東洋の猟場にチヨツかいを出し中原ちうげん大豚おほぶた分配わけまへを取らうと小癪な所為まねをする所は
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
歯のない口をしっかり結んで「へ」の字形にして居るので何だかべそをかいてる様に見える。耳のわれそうな声で話すが、自分は非常に耳が遠い。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
赤や黄の前掛に手拭てぬぐいのようなものをかぶった老婆達が、そこにもここにも熊手を持ってそのポプラと白樺の葉をかいている。私達はいつまでもベンチに腰かけていた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
平生ふだんなれば大広間、たまりの間、雁の間、柳の間なんて、大小名の居る処で中々やかましいのが、丸で無住のお寺を見たようになって、ゴロ/″\箕坐あぐらかいて、怒鳴る者もあれば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すらりと立って向直り、胸少しかいあけて、緋鹿子の座蒲団の片端見せて指さしたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大層たいそう高価のものだろうとしきりにめるから、此方こっちはチャンと向うの腹をしって居る、有益な本で実価は安いなどと威張いばって出掛けると、ソレじゃほかへ持て行けと云うにきまって居るから、一番、その裏をかい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
=矢矧川の橋を引き、たてかいてふせぎ戦ひける
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二隅を折りて襟をばかいあけ、胸のあたりいと白きにそのくれない推入おしいれながら
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神璽しんじを脇にかいばさみ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くだん大笊おおざる円袖まるそで掻寄かきよせ、湖の水の星あかりに口を向けて、松虫まつむしなんぞをくすぐるやうにざるの底を、ぐわさ/\と爪で掻くと、手足を縮めてかいすくまつた、あかだらけのきたない屑屋が、ころりと出た。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
持病になって、三日置ぐらいには苦悶くるしみもだえる、最後にはあまり苦痛がはげしいので、くいしばっても悲鳴がれて、畳をかいむしって転げ廻るのを、可煩うるさいと、抱主かかえぬしが手足を縛って、口に手拭てぬぐい捻込ねじこんだ上
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)