捕吏とりて)” の例文
獄卒らうもり捕吏とりてとは、維新前まで、先祖代々の職務つとめであつて、父はその監督の報酬むくいとして、租税を免ぜられた上、別に俸米ふちをあてがはれた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
八葉堂を中にした千隆寺の庭では、数多あまたの坊主どもが、法衣をがれて、例の捕吏とりての手に縛り上げられて、ころがされている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人殺しをして、山へげて、大木たいぼくこずえぢて、枝から枝へ、千仭せんじんたにを伝はるところを、捕吏とりての役人に鉄砲でられた人だよ。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
五十七人で三人を持て余しているところへ捕吏とりての一隊が現れたので、これ幸いと、鏡丹波などが駈け寄って
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
折ふし向岸の諏訪下の渡船場わたしより早船にて、漕ぎ渡し来る数十人の捕吏とりての面々を血刀にてさし招きつゝ、悠々として大文字山に登り隠れ、の大判小判の包みと
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
余りに人だかりがして騒ぎになったので、捕吏とりてが来て、僧を捕えて牢へ連れて行った。その首は殺された人の首で、殺される時、相手の袖に喰いついたものと考えたからであった。
ろくろ首 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
「よろしい、召捕ってしまうから心配いたすな」やがて後から殺到した捕吏とりての者を、館の外へ配置して、太刀のりを打たせながら侍たちはずかずかと前栽のうちへ入って行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人殺ひとごろしをして、やまげて、大木たいぼくこずゑぢて、えだからえだへ、千仭せんじんたにつたはるところを、捕吏とりて役人やくにん鐵砲てつぱうられたひとだよ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちらと垣根のむこうに動く捕吏とりての白だすきを見つけたので、そのまま、塀からそとの往来に突き出ているけやきの大木に猿のごとくスルスルとよじのぼって下をうかがうと……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その数二三十と思しき捕吏とりての面々、手に/\獲物をたずさへたる中に、の海中に陥りし半面鬼相の雲井喜三郎、如何にしてかよみがえりけむ、白鉢巻、小具足、陣羽織、野袴のばかま扮装いでたち物々しく
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
捕吏とりてたちは、血眼ちまなこになって、住職をとたずね廻るけれども、ついにその姿を見出すことができないで、堂の壇上から裏の藪を越えて、稲荷いなりほこらの前まで、地下に抜け穴が出来ていたのを発見した時は
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
捕吏とりての中には三吉始め富五郎の顔を見知った者も多かったから、紛れもなくお探ね者の卍の遺骸むくろとは皆が一眼で看て取ったものの、残念ながら天命とあっては致し方がない。
とあって捕吏とりてを招集せんか、下枝は風前のともしびの、非道のやいばにゆらぐたまの緒、絶えんは半時を越すべからず。よしや下枝を救い得ずとも殺人犯の罪人を、見事我手に捕縛せば、我探偵たる義務はまったし。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは片手に大刀をさげ、片手で縁の柱をなでて左膳の剣が捕吏とりての新血に染まるごとに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この女は捕吏とりてに追われているのだ!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)