拝殿はいでん)” の例文
旧字:拜殿
二、三にちたってから、おばあさんは、おみやへいってみました。ちょうど拝殿はいでんえんに、あかぼうをおぶったおんな乞食こじきが、こしをかけてやすんでいました。
千羽鶴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふ。其処そこで、野寺のでら観音堂くわんおんだう拝殿はいでんあがり、其方そなた盲人まうじんにて角觝すまうるまじ、うでおしかあたまはりくらかふたつのうちにせむ。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すぐ目のまえの南蛮寺なんばんじへ、なんの貢物みつぎもせずにまつりをするとは太い神主かんぬしだ。グズグズぬかしたら拝殿はいでんをけちらかして、あの賽銭箱さいせんばこを引ッかついでゆけ!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠岐島おきのしま海士村あまむらなどでは、この日の祈願にさきだって、浜の小石を千個だけひろいよせて、めいめいがそれを一つずつ手に持って、お参りしては拝殿はいでんに置いてくるそうである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
赤い鳥居が十基ばかり、その奥に一間四方ほどの堂があって、格子の前には、元大きな拝殿はいでんの前にあったという、幅三尺に長さ六尺、深さ三尺五寸もあろうという法外に大きな賽銭箱さいせんばこがあります。
入営除隊の送迎は勿論、何角の寄合事よりあいごとがあれば、天候季節の許す限りは此処の拝殿はいでんでしたものだ。乞食が寝泊りして火の用心が悪い処から、つい昨年になって拝殿に格子戸こうしどを立て、しまりをつけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
額堂がくどうは吹きさらしだし、拝殿はいでん廊下ろうかへねては神主かんぬしおこるだろうし、と、しきりに寝床ねどこ物色ぶっしょくしてきた蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おばあさんは、まごたちに、いくつもつくってやったあとで、ねんをいれて、かみさまにささげるつるをつくりました。それをいとでつないで、おみや拝殿はいでんとびら格子こうしにつるしました。
千羽鶴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
拝殿はいでん裏崕うらがけには鬱々うつうつたる其の公園の森をひながら、広前ひろまえは一面、真空まそらなる太陽に、こいしの影一つなく、ただ白紙しらかみ敷詰しきつめた光景ありさまなのが、日射ひざしに、やゝきばんで、びょうとして、何処どこから散つたか
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白旗しらはたみやのあれたる拝殿はいでんに入り、そして伊那丸いなまるを中心に、しばらく四方よもの物語にふけっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)