慙愧ざんき)” の例文
けれども、正宗菊松の顔、形を見れば分ることだが、泣かんばかりに悄然とうなだれて、慙愧ざんきの念、身も細るほど全身に現れている。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
時としては目下の富貴ふうきに安んじて安楽あんらく豪奢ごうしゃ余念よねんなき折柄おりから、また時としては旧時の惨状さんじょうおもうて慙愧ざんきの念をもよおし、一喜一憂一哀一楽
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
作家としての目の皮相さについて、慙愧ざんきに耐えないのが本当です。自分としての動機が純であればあるほど、この打撃は痛切なはずです。
この気の毒なレエヌさんをにらみつけて、立ちはだかっていた、自分のすさまじいようすを恥辱はじ慙愧ざんきの感情で思いかえす。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
死者への詫びやら慙愧ざんきやらに、ここのお人々も、かなしみにもだえ、果ては茫然と、そのご運命をぜひなく賊手にまかせられたものだとおもう。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
透谷の精力の或部分は実に僕を攻撃する為めに費されたるものなりしことは僕の今にして慙愧ざんきへざる所なり。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
若気の過失あやまり、やがての後悔、正面、あなたと向い合っては、慙愧ざんきのいたりなんですが、私ばかりではありません。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃を思い出せば何もかもがあまりに浅墓すぎ、あまりに分別が無さ過ぎ、あまりに意地っ張り過ぎていて、一つとして慙愧ざんきの種でないものはなかった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
契った後の後悔慙愧ざんき! 肉親相愛に似たものがあって、いたたまれないような気持ちがした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
故に未だ其底蘊を罄ざる者鮮しと為さず、たゞ人をして医道の真面目を知らしめんと欲するに急にして、にわかに剞劂きけつに附し、れを天下に公けにす。今自ら之を観れば、慙愧ざんき殊に甚だし。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
とまたもや例によっての長広舌、小山も慙愧ざんきえず「モー分ったよ、沢山だ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「大体こういう調査をお願いしますさえ……こんな慙愧ざんきなことを身を切るような気がいたしておりますのに……こんな慙愧至極もないことを御覧に入れまして……お恥ずかしく思っております……」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「わたしもご同様ですよ……わたしはどうも皮肉な性分でしてな、慙愧ざんきにたえません、慙愧にたえません! またお目にかかりましょう。神さまのお手引があれば、必ず必ずお目にかかりますよ!——」
さきにその忠勇を共にしたる戦死者負傷者ふしょうしゃより爾来じらい流浪者るろうしゃ貧窮者ひんきゅうしゃに至るまで、すべて同挙どうきょ同行どうこうの人々に対していささ慙愧ざんきの情なきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
どんな慙愧ざんきの念をもって、昨年十月初旬、治維法の撤廃された事実を見、初めて公表された日本支配権力の兇暴に面をうたれたことだろう。
今日の生命 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして間もなく渭水いすいの岸へ陣地をうつしたが、以来慙愧ざんきにせめられて、病に籠り、陣頭にすがたを見せなくなってしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦争中に反戦論を唱えなかったのは自分の慙愧ざんきするところだなどゝ自己反省する文化人が相当いるが、あんなときに反戦論を唱えたって、どうにもなりやしない。
老婦人はこれよりさき惨絶残尽さんぜつざんじんなる一じょうの光景を見たりし刹那せつな、心くじけ、気はばみて、おのがかつて光子を虐待ぎゃくたいせしことの非なるを知りぬ。なお且つ慙愧ざんき後悔して孝順なる新婦を愛恋の念起りしなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従古いにしえより当路者とうろしゃ古今一世之人物にあらざれば、衆賢之しゅうけんの批評ひひょうに当る者あらず。不計はからず拙老せつろう先年之行為こういに於て御議論ごぎろん数百言すうひゃくげん御指摘ごしてき、実に慙愧ざんきに不[ママ]ず、御深志かたじけなくぞんじそうろう
そこまでの深慮遠謀があってのことなら、何をかいわんやと、劉曄りゅうよう慙愧ざんきして、魏帝の前を退いた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが辰夫は看護婦云々のことなどは問題にせず、打ちのめされた如くに自卑、慙愧ざんき、ものゝ十分ぐらゐ沈黙のあげく、自分の至らぬ我儘から君を苦しめて済まぬ、と言つた。
二十一 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
若し正直な人達であれば慙愧ざんきに堪えないでしょう。ああいう風にして立派な人を死なせたその力はわれわれを堕落させて碌な評論も書けない人間にしてしまったと反省するでしょう。
婦人の創造力 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
郭淮と孫礼が惨たる姿で逃げ帰ってきたのを見ると、仲達は慙愧ざんきして、かえって、ふたりへ詫びた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
臣、さきに隴西ろうせいに派せられ、祁山きざんにおいて孔明と対陣し、功すくなく、罪は大でした。ひそかに慙愧ざんきして、いまだ忠をぶることができないのをはずかしく思っております。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慙愧ざんきに打たれて、びんをそそけ立てたまま、じっともだえ暮している日もあった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくにとっても、故人にとっても、お互い慙愧ざんきにたえない事でしかない。
許攸はいよいよ慙愧ざんきして
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)