“悄(しを)” の例文
泥濘(ぬかるみ)と言(い)へば、まるで沼(ぬま)で、構内(こうない)まで、どろ/\と流込(ながれこ)むで、其処等(そこら)一面(めん)の群集(ぐんしふ)も薄暗(うすぐら)く皆(みな)雨(あめ)に悄(しを)れて居(ゐ)た。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
勘次(かんじ)は悄(しを)れた首(くび)を擡(もた)げて三人(にん)の口(くち)を糊(のり)するために日傭(ひよう)に出(で)た。彼(かれ)は能(よ)く隣(となり)の主人(しゆじん)に使(つか)つて貰(もら)つた。米(こめ)は屹度(きつと)彼(かれ)が搗(つ)かせられた。上手(じやうず)な彼(かれ)は減(へ)らさないでさうして白(しろ)く搗(つ)いた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
直造は、然し、突嗟(とつさ)のうちに考へをまとめることができなかつた。彼はあの慇懃な荘重さをとりもどしてゐた。が、何となく悄(しを)れた所のある物腰で、房一の挨拶を受けたのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
「威張(ゐば)らなくツたつて、何(なに)も、威張(ゐば)らなくツたつて構(かま)はないから、父爺(ちやん)が魚(さかな)を食(く)つてくれると可(い)いけれど、」と何(なん)と思(おも)つたか與吉(よきち)はうつむいて悄(しを)れたのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そんだつて俺(お)ら被(かぶ)んねえよ」痘痕(あばた)の爺(ぢい)さんはすつかり悄(しを)れて畢(しま)つた。群集(ぐんしふ)は皆(みな)腹(はら)を抱(かゝ)へた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
昨日籠へ取らうと思つて居たのに少しの油斷でいまいましいことをしたと悄(しを)れる。親鳥は低い木の枝に止つてまだ騷ぎがやまない。怒を含んだ形であらうか、上へ反らした尾を左右へ動かして居る。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「汝(わ)りや何(なん)ちつたそんで」と呶鳴(どな)つた。與吉(よきち)は悄(しを)れて暫(しばら)く沈默(ちんもく)した。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)