きつ)” の例文
旅の飴屋が唐人笛などを吹いて通ると、きつとそれを呼んで、棒の先にシヤブるやうにした水飴を私に買つて呉れたのも、斯の婆さんでした。
純粋外国だねだつてきつと俺達より勝れてるわけでは無い。「テリヤー」や「ターンスピツト」や「プードル」のやうな奴は何所が好いんだか俺達には解らぬ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
そらあをかつた。それはきつ風雪ふうせつれた翌朝よくてうがいつもさうであるやうに、なにぬぐはれてきよあをかつた。混沌こんとんとしてくるつたゆきのあとのはれ空位そらぐらひまたなくうるはしいものはない。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
僕等が毎晩ねる時は、おやすみよつくときつと言ふ。
「でも折角せつかく御供をして参りましたのに……『何だつて病院まで行かないんだ、何の為にいて行つたんだ』なんて、きつとまた私が旦那様に叱られます——」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
毎朝御飯前と午後ひるすぎ、学校からお帰りになるときつ練習おさらひなさるが、俺達のやうな解らないものが聞いてさへ面白いから、何時でも其時刻を計つて西洋間の窓の下に恍惚うつとりと聞惚れてゐる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
何故なぜといつて、いままあかりにあるわざはひが來て、あなたのその要らない子供をうばつてくとしませう、そのときあなたはきつと、もあげてそのお子さんをすくはうとなさるにちがひありませんもの。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「兄さんは矢張やつぱり叔母さんの生家さとへ知らずに買物に行つたのよ。三度も。なんでもハイカラな娘が居たなんて——きつとおきみさん(叔母さんのめひ)のことよ。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
れも其辺そこら勧工場くわんこうばで買へない高料たかい品を月に一遍位はきつと持つて来た子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「大丈夫。そんな旦那様ぢや無いから。何だか子供の方が気になつて仕様が無い……お前に行つて見て貰ふと、私は一番安心だ。うちの方ぢやきつみんな困つてるよ。」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
物のキマリの好い豐田さんの家では、三時といふときつと煎餅なり燒芋なりが出ました。
「御嬢様方は如何どうして被入いらつしやいませう。きつ最早もうおねんねで御座いますよ。」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「めづらしいことだ——きつと誰かに教はつてよこした、なんて言ふだらうなあ。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「アヽ、あの黒いのが山毛欅で、白いのがきつと欅ですぜ。」斯うA君が言つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私の眼からは止處とめどもなく涙が流れた。痛い風の刺激に逢ふと、きつと私はこれだ。やがて山間に不似合な大きな建築物たてものの見える處へ出て來た。修善寺だ。大抵の家の二階は戸が閉めてあつた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)