微笑ほほゑ)” の例文
その約束もきはめて置きたいねと微笑ほほゑんで言へば、そいつはいけない、己れはどうしても出世なんぞはないのだから。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あまりの不思議さに我を忘れて、しばしがほどは惚々ほれぼれ傾城けいせいの姿を見守つて居つたに、相手はやがて花吹雪はなふぶきを身に浴びながら、につこと微笑ほほゑんで申したは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
栄蔵が見ると、新太郎ちやんは、寂しさうに微笑ほほゑんでゐる。栄蔵の胸に、ぐつと悲しみがこみあげて来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
ただ私のしやべつてゐるのを理由わけもなく微笑ほほゑましい氣がしながら聞いてゐるとしか思へない容子ようすである。
生者と死者 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
胸に浮ぶ思の數々は、それからそれとはてしも無い。お定は幾度か一人で泣き、幾度か一人で微笑ほほゑんだ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それを見た牧師は、心から微笑ほほゑまぬわけにゆかなかつた。そして感心したやうに人に話した。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
案外傷ついてもゐない。すぐ、起きあがつて微笑ほほゑむ。——ゆき子は、時計を見上げ、をばさんがなかなか戻つて来ない事に安心してゐた。いつも使ひの遅いをばさんであつたが、今日も案外遅い。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
その時お葉は青年と共に微笑ほほゑんだ。そしてうつ向きながら、瓶の中のダーリヤをつまんだのであつた。自分の三十三の死といふのは、本當に運命に支配されない、運命の前を歩くといふ事だつたのだ。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
相手の人はかすかに微笑ほほゑんで、帽子に手をかけて答へました。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
それから清は前に立つて微笑ほほゑみながら母を眺めて居る滿に
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
微笑ほほゑみてほのかにあらむ白雪のありなし人とけふなりにけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さても微笑ほほゑむやさまみや。散りては更に寄せなる
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
バーンスの詩の純朴に微笑ほほゑんでゐた
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
別離わかれといふに微笑ほほゑむ君がゑまひ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
中々に微笑ほほゑましい眺めであつた。
満枝はあざけらむが如く微笑ほほゑみて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と、また微笑ほほゑまうとする。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
落した直覺ちよくかくあと微笑ほほゑ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
そして、幽かにくちを歪めて微笑ほほゑんで見た。其処にも此処にも、幽かに微笑んだ生徒の顔が見えた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宮のまはりにあるむくの林は、何度となく芽を吹いて、何度となく又葉を落した。其度に彼はひげだらけの顔に、いよいよ皺の数を加へ、須世理姫は始終微笑ほほゑんだ瞳に、ますます涼しさを加へて行つた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
良寛さんが遠くへいつてしまつて、ふたたび帰つて来ないことを知らない子供達は、「帰りにおはじきしませう、良寛さん。」といつたりした。良寛さんは寂しく微笑ほほゑんで過ぎていつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
と、いひさし微笑ほほゑみぬ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
髪かしげ、微笑ほほゑみながら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
微笑ほほゑみて泣く吾身かな
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ひめ微笑ほほゑ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
尤も身熱しんねつ烈しく候へば、ほとんど正気無之これなていに相見え、いたいけなる手にて繰返し、繰返し、くうに十字を描き候うては、しきりにはるれやと申す語を、うつつの如く口走り、其都度つど嬉しげに、微笑ほほゑみ居り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女中奉公しても月にまかなひ付で四円貰へるから、お定さんも一二年行つて見ないかと言つたが、お定は唯うつむいて微笑ほほゑんだのみであつた。怎して私などが東京へ行かれよう、と胸の中で呟やいたのである。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と和尚さんは微笑ほほゑんだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「はてさて、おぬしと云ふわらんべの重さは、海山うみやまはかり知れまじいぞ。」とあつたに、わらんべはにつこと微笑ほほゑんで、頭上の金光を嵐の中に一きは燦然ときらめかいながら、山男の顔を仰ぎ見て
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お定は幾度いくたびか一人で泣き、幾度か一人で微笑ほほゑんだ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)