復讎ふくしゅう)” の例文
独身そのものを異性に対する一種の復讎ふくしゅうとまで考えていた彼は、日頃わずらわしく思う女のために——しかも一人の小さな姪のために
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
折れたか、と吃驚びっくりして、拾い直して、そっと机に乗せた時、いささか、蝦蟆口がまぐちの、これで復讎ふくしゅうが出来たらしく、おおいに男性の意気を発して
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はすでに破産者になっているだろう——狼狽と擾乱じょうらんと滅亡とそして眼には見えない悲惨との犠牲者になっているだろう……二重の復讎ふくしゅうになって……
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
「親の喪におりますから困ります。それに復讎ふくしゅうするつもりですから、女をれていては手足まといになるのです。」
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その出て行くときの彼女の礼節を無視した様子には、たしかに、長らく彼女をいじめた病人と病院とに復讎ふくしゅうしたかのような快感が、悠々ゆうゆうと彼女の肩に現われていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
自分に隠して長いあいだお島を庇護かばいだてして来た父親に対する何よりの気持いい復讎ふくしゅうであるらしく見えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし吾輩は復讎ふくしゅうを考えている。あいつの羽を切って、そいつに厚紙でこしらえた車を、磐石糊ばんじゃくのりという奴で張り附けてかせると、いつまでも生きていて曳くからね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
復讎ふくしゅう、復讎、世に心よきはにくしと思う人の血をすすって、そのほおの一れんに舌鼓うつ時の感なるべし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
のちに小野庄左衞門は蟠龍軒からうらみを受け、遂に復讎ふくしゅうの根と相成りまするが、お話変ってこれは十二月二十三日の事で、両国りょうごく吉川町よしかわちょうにお村と云う芸者がございましたが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしどうなっても構わない、断るんです。貴方が僕に復讎ふくしゅうしている間は断らなければならないんです
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
想像にかたくはない。そこでその二人に対して恐ろしい復讎ふくしゅうを思い立ったのだ。恋の敵の雪子を殺し、その死骸に自分の着物を着せて、大宅君に殺人の嫌疑がかかる様に仕組んだのだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わが国古来のいわゆる「かたきうち」とか、「仇討あだうち」とかいうものは、勿論それが復讎ふくしゅうを意味するのではあるが、単に復讎の目的を達しただけでは、かたき討とも仇討とも認められない。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも鼠を捕ろうとして取りがすと、その復讎ふくしゅうが最も怖ろしいものと信じられて、常の日も決して彼らの本名を口にせず、家々村々には色々の忌言葉いみことばがあって、たとえば殿とのがなし、家主やぬしがなし
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(女の決心は、男の決心よりも強い。その今、流している涙を十倍にして、敵党へ叩きつける決心をするのだ。父の分、母の分、兄の分、姉の分を、自分一人で背負って、復讎ふくしゅうする決心をしておれ)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
兵さんは無論復讎ふくしゅうする心算つもりらしかった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
独身は彼に取って女人に対する一種の復讎ふくしゅうを意味していた。彼は愛することをすら恐れるように成った。愛の経験はそれほど深く彼をきずつけた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うらみと、ひがみいきどおりとをもって見た世に対して、わば復讎ふくしゅう的におのれが腕で幾多遊冶郎ゆうやろうを活殺して、そのくらい、その血をむることをもって、精魂の痛苦をいやそうとしたが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
討ちもらした二つの怪しい物が復讎ふくしゅうに来るかも判らないので、万にいてもらうことにして、その豕を焼き馬を煮て御馳走をこしらえたが、その味はいつもの料理とちがってうまかった。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
にくしと思う川島片岡両家の関鍵かんけんは実に浪子にありて、浪子のこの肺患は取りも直さず天特にわれ千々岩安彦のために復讎ふくしゅうの機会を与うるもの、病は伝染致命の大患、武男は多く家にあらず
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
兇暴なお島は、夢中で水道の護謨栓ゴムせんを向けて、男の復讎ふくしゅうを防ごうとした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
独身を一種の復讎ふくしゅうと考えるほど、それほど女性をいとにくむものでは無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人びとは一緒に王母子のしがいしらべた。窓の上に一つのはこがあった。開けて見ると庚娘の書いた物があって、くわしく復讎ふくしゅうの事情を記してあった。皆庚娘を烈女として尊敬し、金を集めて葬ることにした。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)