引摺込ひきずりこ)” の例文
それを皆なめかけを置いたり、芸妓げいしやを家に引摺込ひきずりこんだり、遊廓に毎晩のやうに行つたり、二月ばかりの中に滅茶/\にして仕舞つたゞア。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
事ははなはだ簡単である。旦那の留守に以前のお客を引摺込ひきずりこんだのだから、このまま暇をやって仕舞えばよい。それでむこうも、何一ツ苦情を云うべきはずはない。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこらになまずでも湧出わきだしそうな、泥水の中へ引摺込ひきずりこまれそうな気がしたんで、骨まで浸透しみとおるほど慄然々々ぞくぞくするんだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みぞれがバラ/\降って参りまして、ごく寒いから、新吉は食客いそうろうの悲しさで二階へあがって寝ますが、五布蒲団いつのぶとん柏餅かしわもちでもまだ寒いと、肩の処へ股引などを引摺込ひきずりこんで寝まするが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こんな山奥へ引摺込ひきずりこまれて、人だか𤢖だか判らぬような怪物共ばけものども玩弄おもちゃにされてたまるものか。ひと面白くもない、好加減いいかげんに馬鹿にしろと、彼女かれは持前の侠肌きゃんを発揮して、奮然たもとを払ってった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三吉は燈火あかりも点けずに、薄暗い部屋の内に震えながら坐っていた。何となく可恐おそろしいところへ引摺込ひきずりこまれて行くような、自分の位置を考えた。今のうちに踏留ふみとどまらなければ成らない、と思った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
当座の花だ、むずかしい事はない、安泊やすどまりへでも引摺込ひきずりこんで、裂くことは出来ないが、美人たぼ身体からだを半分ずつよ、丶丶丶の令息むすこと、丶丶の親類とで慰むのだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此処こゝにいらっしゃる方は大小を差した立派なお武家様で、人の娘を知りもしないところ無理遣むりやりに引摺込ひきずりこんで、飲めもしない者に盃をさして何うなさる、の方は本当に馬鹿々々しくて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
トタンに、背後うしろからわたし身體からだ横切よこぎつたのはれいのもので、其女そのをんなあしまへ𢌞まはつて、さきにえた。啊呀あなやといふうち引摺込ひきずりこまれさうになつたので、はツとするとまへたふれた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
撲殺なぐりころしてめ損い、げんとして馬丁べっとう見露みあらわされ、書生のために捕えられて、玄関に引摺込ひきずりこまれし、年老いたる屠犬児いぬころしは、破褞袍やれおんぽうて荒縄の帯をめ、かかとあたりは摺切れたる冷飯草履ひやめしぞうりを片足脱ぎて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)