ほと)” の例文
一週間ほどたつと、男はそれだけの金を耳をそろへて持つて来たが、女は其のうち幾分を取つただけで、意見をしてほとんど全部を返した。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
すなわち剣をひっさげて、衆に先だちて敵に入り、左右奮撃す。剣鋒けんぽう折れ欠けて、つにえざるに至る。瞿能くのうあいう。ほとんど能の為に及ばる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これに十歳の童子に向って告ぐるの言ならんや、しこうして彼の眼中には、ほとんど童子なし。彼は十歳の少年をも、殆んど己と同地位に取扱えり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
宗祐は無二の忠臣也。親房を奉じて忠節を尽せり。当時、関東はほとんどすべて賊に附して、結城親朝さへ心を飜しぬ。
秋の筑波山 (新字新仮名) / 大町桂月(著)
後、遂に之を置くものほとんど六十年。今年七十七、永昼無事、再び取つて之を読む。旧師友を見るが如し、間闊の久きを恨む。(渭南文集、巻二十九)
ほとんど二年位してのことであった。元豊はわけがあって他村へいって夜になって帰っていた。円い明るい月が出ていた。村のはずれに王の家の亭園があった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
また隣室の若い細君は、力無く見ひらいた眼の美しい、透き通るやうな青白い顏をして、彼がこの家へ來てからほとんど起きてゐた日がないやうであつた。
哀しき父 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
赤城山の東には、根張りの大きい武尊ほたか山がほとんど全容を露している、信州の穂高山と同じ神が祭ってある所から察すると、何か其間に因縁があるらしい。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
而かもその不磨の記憶となりて永く後ちに残る程の奕々えき/\たる触発の場合は、ほとんどあらざりし也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
満園ノ奇香微風ニ動クハ菟裘ときゅうノ薔薇ヲううルナリ。ソノ清幽ノ情景ほとンド画図モ描クあたハズ。文詩モ写ス能ハザル者アリ。シカシテ遊客寥々りょうりょうトシテ尽日じんじつ舟車ノ影ヲ見ザルハ何ゾヤ。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其頃の青年に、政治ではない、政論に趣味を持たん者はほとんど無かった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いまだ断つに及ばずして、王ついに逸し去る。燕王ほとんど死してさいわいに逃る。天助あるものゝ如し。王おおいに怒り、巨礟きょほうを以て城を撃たしむ 城壁破れんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また隣室の若い細君は、力無く見ひらいた眼の美しい、透き通るやうな青白い顔をして、彼がこの家へ来てからほとんど起きてゐた日がないやうであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
旅客の姿のほとんど全く絶えてしまった停車場へ、ひとりのこされることになったお島は、兄を送っていった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それ元和げんな偃武えんぶ以来、ほとんど四半世紀、忽然こつぜんとして清平の天地に砲火を上げ、竪子じゅしを推して、孤城を嬰守えいしゅし、赫々かくかくたる徳川覇府はふの余威をり、九州の大名これを合囲ごういし、百戦老功の士これを攻め
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
其の刹那に於いて予みづからはほとんど神の実在に融け合ひたるなり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
其結果金峰山から東走して来た山脈は、其儘そのままほとんど一直線に信州武州の境を雁坂峠に続くものと信じられていたことは、其信念を形の上に現したものと見て差支の無い甲州の古図が之を証明している。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
食物たべものといっては、昼からほとんど何をも取らない二人は、口も利けないほどえ疲れていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旅から帰って来た鶴さんは、落着いて店で帳合をするような日とては、ほとんど一日もなかった。たまに家にいても、朝から二階へあがって、枕などを取出して、横になっているような事が多かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)