帰路きろ)” の例文
旧字:歸路
帰路きろ余は少し一行におくれて、林中りんちゅうにサビタのステッキをった。足音がするのでふっと見ると、むこうのこみちをアイヌが三人歩いて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その笑顔を清三は帰路きろの闇の中に思い出した。相対していたのはわずかの間であった。その横顔を洋燈らんぷが照らした。つねに似ず美しいと思った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と、プリプリして筆幸の店を立ち出でた村井長庵は、ちょうどその時、お絃、右近の喧嘩屋一行の駕籠と同じ途を、こうじ町平河町の自宅へ帰路きろについていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もう晩飯ばんめしの用意もできたから帰ろうじゃないかと云って、二人帰路きろについた時、自分は突然岡田に、「君とお兼さんとは大変仲が好いようですね」といった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕達は又午後五時から二時間程の間倫敦ロンドン市の中心から吐出はきだされて、テエムスに架せられた幾多の大鉄橋を対岸へ渡つてく幾万の労働者の帰路きろに混じつて歩きなが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
探険の興は勃然として湧起ってきたが、工場地の常として暗夜に起る不慮のわざわいを思い、わたくしは他日を期して、その夜は空しく帰路きろを求めて、城東電車の境川停留場さかいがわていりゅうじょう辿たどりついた。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帰路きろ闇川橋やみがはばしとほりけるに、橋姫はしひめみやのほとりにて、たけたかくしたゝかなる座頭ざとうばう、——としてあるが、宇都谷峠うつのやたふげとは雲泥うんでい相違さうゐのしたゝかなるとばかりでも一寸ちよいとあぶみくぼませられる。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
●かくてやゝ日もかたふきければ帰路きろうながしけるに、哥妓げいしやどもは草鞋わらじにてきたりしとてそれはわしがのなり、これはあれはとはきすてたるをあらそふてはきいづる、みな酔興すゐきやうなれば噪閙おほさはぎしてみちく。
その会が終っての帰路きろに、ポーデル博士は東助とヒトミにいった。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かつその日の帰路きろ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
第二信は、ある日白が縄をぬけて、赤沢君のうちから約四里甲府こうふの停車場まで帰路きろを探がしたと云う事を報じた。しかし甲府からは汽車である。甲府から東へは帰り様がなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
●かくてやゝ日もかたふきければ帰路きろうながしけるに、哥妓げいしやどもは草鞋わらじにてきたりしとてそれはわしがのなり、これはあれはとはきすてたるをあらそふてはきいづる、みな酔興すゐきやうなれば噪閙おほさはぎしてみちく。