尾行つけ)” の例文
「しかし、放してやっても、唖めが、尾行つけられていることを覚ればもう効力はないから、すぐにその場から縛りあげて、牢へ戻せ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わっちは現在見たんでさあ。嘘も偽わりもあるものですかい。ええええ尾行つけて行きましたとも。するとどうでしょうあの騒動でさ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「馬鹿! 尾行つけられて来たじゃないか。刑事らしい奴が裏口の方にいる。仕方がない、俺は直ぐ行く。実印を浅田に渡せ。いいか分ったか」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
尾行つけてるって言ってるじゃないの。……(手提のなかから白い分厚な封筒をとりだすと、それを久我のほうへ押しやって)
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
無論、彼女がどこへ行ったか、まだ私のあとを尾行つけているかというようなことはいっさい気にかけなかった。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
何しろ彼は、商売仲間でははやぶさ英吉と云う名で通って居るけに、年は若いが腕にかけては確乎しっかりしたものである。尾行つけられて居るのも知らない程茫然ぼんやりして居ようはずはない。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
大阪弁が出たので、紀代子はちらと微笑し、用がないのに尾行つけるの不良よ、もう尾行たりしないでね、学校どこ? 帽子みれば分りまっしゃろ。あんたの学校の校長さん知ってるわよ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
文珠屋佐吉の乾児こぶんで承知の由公、こいつ、名打ての尾行つけや張込みの名手なので。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
現に一昨日おとといの晩も、朝鮮人らしい奴が一人尾行つけて来たから、有楽町から高架線の横へ引っぱり込んで、汽車が大きな音を立てて来るのを待って振り返りざま、咽喉元を狙って一発放したら
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
足音をきくとやにわにむくりと起き上がりながら、胡乱うろんなまなざしであとになりつ、先になりつ、駕籠を尾行つけ出しましたので、時が時でしたから京弥がいぶかしんでいると、青竹杖をつきつつ
「途中スパイに尾行つけられたのを、今うまくまいて來たんだ。」
一九二八年三月十五日 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
この頃戸外そとの往来を、植木師の一隊が通っていた。そうして老人と美少年と、女猿廻しのお葉とが、その後を尾行つけて歩いていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分のうしろを尾行つけていた者の影が自分から離れると、彼は、蓮華王院の裏地へ行くのに、わざとそこの表門へ入ってしまったのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
罵倒ばとうしてみても、撲ってみても心が安まらなかった。安二郎は五十面下げて嫉妬しっとに狂いだしていた。お君がこっそり山谷に会わないだろうかと心配して、市場へ行くのにもあとを尾行つけた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
筋が通らないから、これもいけない。いろいろあせりぬいているうちに、どうやら久我にうしろ暗いところがあると見込んで、神戸くんだりまでおハナさんを尾行つけてやってアラ拾いをさせる。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「まこと、まんまと釣れました。さすが八荒坊も、すっかり、あなたを弁ノ殿と思い込み、眼もはなたず尾行つけて来るようです」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いったい誰の屋敷だろう?」ここまで尾行つけて来た弓之助は、しばらく佇んで眺めやった。少し離れて百姓家があった。そこで弓之助は訊いて見た。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家の構えはともかく、高利貸の商売をしているのを知られるのがいやで、尾行つけられたと気付くと、蒼くなって曲り角からどんどん逃げた。家へ駈け込むとき、軒先へ傘を置き忘れた。果して
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「あたし、毎日あなたのあとを尾行つけていたのよ。……知ってた?」
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そこは、おこもの十郎だ、抜け目はねえ。野郎と別れるふりをして、横丁にかくれ、後を尾行つけてゆくと、ばくろ町の旅籠はたごでわらじを脱いだ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足が疲労つかれているからであろう。……と思うのは間違いで、実は彼は不思議な老人に後を尾行つけられているのであった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから、その翌日から三日も続けて、上本町六丁目から小橋西之町への舗道を豹一に尾行つけられると半分は五月蝿いという気持からいきなり振り向いて、何か用ですのときめつけてやる気になった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ええ、狐が尾行つけて来ましたから、化かされないうちにと要心して、脚だか尻尾だか斬りました。その狐が、あだをしたんです」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……邸を見張ろうか? 駕籠を尾行つけようか? どうもこいつは困ったぞ。……えい思い切って駕籠を尾行つけてやれ!」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「説教が終って、もう立った。念のため、途中まで見えがくれに尾行つけながら来たのだ。今しも、この先の渓間たにあいを、野馬に乗って参るのが親鸞」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「素晴らしい女もあるものだ。どういう素性の女だろう? ……待てよ、島田に大振り袖! ……ううむ、何んだか思いあたるなあ。一番後を尾行つけて見よう」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とくにおし大蔵だいぞうにすれば、下赤坂から尾行つけて来たものを、途中、不覚にも道から崖下へ蹴落されていたことでもあるのだ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何となく宇津木矩之丞には、開けずの間の建物が気になったので、そこで深夜に行ってみると、その後から例の大学の手下が、コッソリ尾行つけて来たのである。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを……あははは……尾行つけて行った馬鹿者があるのだから、世の中は、忙しいようで、無駄飯食いも相当にあると見える
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうさな、恐ろしくもないわけだな……でそれでは今日まで後を尾行つけた事もないのだな?」
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
編笠のふちに手をかけ、横丁の人通りを見まわして、誰も怪しげな影は尾行つけていないと見定めると、ずかずかと、長屋の軒下のきしたを通って、四軒目
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茅野雄の後を尾行つけるとなれば、小枝を捨てなければならないだろう。弦四郎には小枝が捨てかねた。茅野雄と戦って茅野雄を殺すにしても、小枝を地上へ下ろさねばなるまい。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その帰るところを尾行つけてみると、九条の月輪殿のおやかたで、女は、姫の侍女かしずき万野までのだということまで洗ってあるのだ——といってりきかえるのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「と云ってうっちゃっては置かれないよ。……ここまで尾行つけて来た甲斐かいだってないよ」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(いやな奴だ、女たらしかもしれぬ。朱実も朱実、おれに黙って、どこへ行くのかと思って後を尾行つけて来てみれば……あんな男に、泣いたりなどして)
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云うのは弦四郎は茅野雄の後を尾行つけて、わざわざ飛騨の山の中へ、入り込んで来た身の上であって、道に迷って茅野雄を見失い、偶然に丹生川平という、不思議な郷へ入ったものの
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
碓氷峠以来何年ぶりかであきらかに見るかたきの姿——重蔵は思わずあッと出る声を押えて、千浪にうなずき返すや否、無言のままタッタと後を尾行つけだした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ユダは後を尾行つけて来た。菩提樹の陰へ身を隠し、そこから様子をうかがった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「わしにはわけが分らぬ——ただ先ほども、途中で誰か気づいたが、わし達の後を尾行つけて来たあの人影に違いない」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いよいよこの俺を尾行つけているらしい。間違いはない、間違いはない」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大川へ漕ぎ出ると、河岸を尾行つけて来た人影は、どこへ散ったか、見えなくなった。上野介は、初めて、笑った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……この風態で尾行つけられたのでは紋太郎渋面をつくる筈だ。破れた三度笠を背中に背負い胸に叩きがねを掛けているのは何んの呪禁まじないだか知らないけれど益〻仁態を凄く見せる。それで時々ニタリと笑う。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そういうおめえだから、そう先生も心配なすって、この朱貴をお目付役に、おめえの後を尾行つけさせたんだ。……ま、立ち話も物騒だ。そこの店へ入りねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこにお住居なさるやら、それさえ一向見当付かず、ある時木場のお役人様が、こっそり後を尾行つけられた時、天に上ったか地に潜ったか、突然眼の前で消えられたそうで。そういうお方でございます。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あとを尾行つけられてはならぬと、日頃、詩文だけの交わりをしている風雅の老友を先に訪ね、わざと深更まではなしこんで、夜も三こうのころ気がついたように
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんまり見事なわざだったので、後からこっそり尾行つけて来た奴さ」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「見かけによらない強情なところは、感心なものだといっておこう。誰にたのまれて、おれの後を尾行つけたのか、それさえ白状したら生命いのちは助けてやるがどうだ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……どうやら俺を尾行つけるらしい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「察するところ、おあと尾行つけてきて、なお、去りやらず、築地ついじを越えて入りこんだものと思われます」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいや、そうじゃない。たしかにおれを尾行つけて来たに違いない。いったい、誰に頼まれたかいえ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)