官吏かんり)” の例文
次ぎの求婚者は今までかつて知らなかった一人の官吏かんりであったが祖母は一目見て「この男なら」とその男を見込んだ。
官吏かんりとか大会社の社員とかいう、日本の国力を背景に持った人たちのことは心配する必要もないが、対等の条件で、人間と人間とが生活の上で競争する日のことも
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それから又細い通りを幾度も曲って、三町ばかりも歩くと、おそろいの小さな門のついた、官吏かんりの住宅とでもいった感じの借家が、ずっと軒を並べている町へ出た。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はたまた会社員でも官吏かんりでも、月給を得んがために、礼をもらわんがために、ボーナスにあずからんがために、その他なんらかのためにする手段として職務に従事することは
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
父は内閣を「太政官だじょうかん」大臣を「きょう」と称した頃の官吏かんり一人いちにんであった。一時いちじしきりと馬術に熱心して居られたが、それも何時しか中止になって、のち四五年、ふと大弓だいきゅうを初められた。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
いまから大凡おおよそ十三四ねん以前いぜん、このまちの一ばん大通おおどおりに、自分じぶんいえ所有っていたグロモフとう、容貌ようぼう立派りっぱな、金満かねもち官吏かんりがあって、いえにはセルゲイおよびイワンと二人ふたり息子むすこもある。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
公平無私な官吏かんり苛斂誅求かれんちゅうきゅうを事とせぬ政治家の皆無かいむだった当時のこととて、孔子の公正な方針と周到な計画とはごく短い期間に驚異的きょういてきな治績を挙げた。すっかり驚嘆きょうたんした主君の定公が問うた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
少年連盟しょうねんれんめいが風雨と戦いつつあるところは、すなわちこの群島の圏内けんないである。このへんの正月は日本の七月ごろに相当する、かれらはことごとくニュージーランドに住む商人や官吏かんりの子である。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
快活かいかつ情愛じょうあいがあって、すこしも官吏かんりふうをせぬところから、場中じょうちゅう気受きうけも近郷きんごう評判ひょうばんもすこぶるよろしかった。近郷きんごう農民のうみんはひいきの欲目よくめから、糟谷は遠からずきっと場長じょうちょうになると信じておった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ラジオなどで聞くえらい官吏かんりなどの講演の口調は一般に妙に親しみのないしかつめらしい切り口上が多くてその内容も一応は立派であるがどうも聴衆の胸にいきなり飛び込んで来るようなものが少ない。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
官吏かんりの未亡人で、といっても、もう六十に近い老婆だったが、亡夫ののこして行った数軒の借家から上る利益で、十分生活が出来るにもかかわらず、子供を恵まれなかった彼女は
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一を business と名付なづけて、もちろん自由業は高尚こうしょうなものとなし、これに従事している者には社会も相応の尊敬そんけいを払って、あるいは官吏かんりあるいは弁護士、教育家
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そうして各人かくじん正当せいとうおわりであるとするなれば、なんため人々ひとびと邪魔じゃまをするのか。かりにある商人しょうにんとか、ある官吏かんりとかが、五ねんねん余計よけい生延いきのびたとしてところで、それがなんになるか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
買手はY市から程遠からぬ、大都会に住んでいた、ある官吏かんりでありました。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)