安物やすもの)” の例文
そうしてなかなか商売は繁昌はんじょうして居る。かえってダージリンよりもあきない高は多い。従って上等の物は売れないけれども安物やすものは沢山売れる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
びんそこになつた醤油しやうゆは一ばん醤油粕しやうゆかすつくんだ安物やすもので、しほからあぢした刺戟しげきするばかりでなく、苦味にがみさへくははつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それが黒い鍔広つばびろの帽子をかぶって、安物やすものらしい猟服りょうふくを着用して、葡萄色ぶどういろのボヘミアン・ネクタイを結んで——と云えば大抵たいていわかりそうなものだ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
引きちがいに立てた格子戸こうしどまいは、新しいけれど、いかにも、できの安物やすものらしく立てつけがはなはだわるい。むかって右手みぎて門柱もんちゅう看板かんばんがかけてある。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まことに粗末そまつちゃわんをおつけもうしまして、もうしわけはありません。いつであったか、まちましたときに、安物やすものってまいりましたのでございます。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
三畳の方は茶の間になツてゐて、此處には長火鉢ながひばちゑてあれば、小さなねずみいらずと安物やすもの茶棚ちやだなも並べてある。はしらには種々なお札がベタ/\粘付はりつけてあツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
まち玩具屋おもちゃやから安物やすものっててすぐにくびのとれたもの、かおよごはなけするうちにオバケのように気味悪きみわるくなってててしまったもの——袖子そでこふる人形にんぎょうにもいろいろあった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから飯の味付けは、上方かみがた式に米の中に昆布こぶ、砂糖などでいろいろ加味しては江戸前えどまえにはならない、塩、酢、だけの味付けが本格である。また飯の握りの大きいのは安物やすものである。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「なあにあれは、ざらにある安物やすものだ。」と、おじさんは、にもとめられませんでした。
花かごとたいこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは、めっきした安物やすものだ。あのあおたまはほんとうは、ガラスでない、めずらしいいしなんです。どこのものか、らないやつに、もうけられてたまるものか……。わたしが、とりもどしてきてあげましょう。
お母さんのかんざし (新字新仮名) / 小川未明(著)