はしため)” の例文
こたびの道づれははしため一人のみ。例の男仲間は一人だになし。かく膽太く羅馬拿破里の間を往來ゆききする女はあらぬならん、奈何いかになどいへり。
猫はもうはしためたちの方へは寄りつきもせず、いつも二人にばかり絡みついていて、物もきたなげなのは顔をそむけて食べようともしなかった。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
雪が降ったりんだりして、年が暮れかかった。やっこはしためも外に出る為事しごとを止めて、家の中で働くことになった。安寿は糸をつむぐ。厨子王は藁をつ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかして神のはしためを見よといふ言葉、あたかも蝋に印影かたさるゝごとくあざやかにその姿にられき 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これは、その家の主人幼稚なるゆえ、奴僕ぬぼくが塩、味噌みそ、薪炭等を盗み取るに、下女、はしためども妨げになりしゆえ、早く起きざらんため、かくのごとくいいしとぞ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この観音の内にひそむヴィナスは、単に従順な慈悲のはしために過ぎぬ。この観音の像が感覚的な肉の美しさを閑却して、ただ瞑想の美しさにのみ人を引き入れるのはそのためである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
御者ぎょしゃ懶惰ぶしゃうはしため指頭ゆびさきから發掘ほじりだ圓蟲まるむしといふやつ半分はんぶんがたも鼠裝束ねずみしゃうぞくちひさい羽蟲はむし車體しゃたいはしばみから、それをば太古おほむかしから妖精すだま車工くるましきまってゐる栗鼠りす蠐螬ぢむしとがつくりをった。
二度三度叫ぶのを聞きつけて若いはしためが二人、手燭てしょくを持って駈けつけて来た。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「若党の三次、爺やの熊吉、それからはしためが二人」
そうして親達の手まえもあり、息子は、その京の女をおもてむきはしためとして伴れ戻らなければならなかった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
門に進みてはしために問へば、家にいますは夫人のみにて、目覺めざめて後は快くなれりとのたまへり。間雜つねの客をばことわれと仰せられつれど、檀那だんなは直ちに入り給ひてもよろしからんとなり。
金で買ったはしためをあの人たちは殺しはしません。多分お前がいなくなったら、わたしを二人前働かせようとするでしょう。お前の教えてくれた木立ちの所で、わたしは柴をたくさん苅ります。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こういう状態のなかで、靱負の唯一のたのみははしためのおかやであった。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「若黨の三次、爺やの熊吉、それからはしためが二人」
他のはしためと同様に、髪は巻きあげ、衣も粗末なのをまとってはいたが、その女は何処やら由緒ありそうに、いかにも哀れげに見えた。その女をはじめて見たときから、守の心はふしぎに動いた。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
小屋を明ければ、やっこは奴、はしためは婢の組に入るのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おまえがいてお呉れだった時は、人目も見え、はしためたちも多かったが、此頃というものは、殆ど人けが絶えて、一日じゅう人ごえもしない位だ。ほんとうに心細くって為様がない。こんな具合では、一体、おれ達はどうなるのだろうなあ」
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)