妖婆ようば)” の例文
それは緑色の衣を着て長い白髪しらがを肩へ垂れた老年としより妖婆ようばが輪から離れ、朽木の切り株へ腰をかけ悲しそうに泣き出したからである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「……それにしても九人というのは面白いですねえ。西洋の伝説にある妖婆ようばは、九というすうを非常に好むという話ですから」
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と、まるで芝居がかりの妖婆ようばのような口調でいった。そして短刀をしてジリジリと青竜王の方へ近づいてくるのであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みると、黒衣こくい妖婆ようば。——晴季のッ先をびのくが早いか、乱杭歯らんぐいばの口を、カッと開いて、ピラピラピラピラ! と目にもとまらぬはりをふいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妖婆ようば按摩あんま頓馬とんまに至るまでを使用して国家有用の材にはんを及ぼしてかえりみざる以上は——猫にも覚悟がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんじは、汝個人のおそろしさ、怪奇、悪辣あくらつ古狸ふるだぬき性、妖婆ようば性を知れ! などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
初陣ういじんの此の若武者わかむしゃ、霧に打たれ、雨に悩み、妖婆ようばのために取つて伏せられ、しのびをプツツリ切つて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……又四郎はちょっと躊躇ためらいを感じたが、思いきって案内を乞うと、妖婆ようばのような女が顔を出して
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その世間話の中へ挟みながら、「是非一度これは先生に聞いて頂きたいと思って居りましたが。」と、ほとんど心配そうな顔色でおもむろに口を切ったのが、申すまでもなく本文の妖婆ようばの話だったのです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妖婆ようばの吹き針に目をつぶされて、なにかたまろう、菊亭晴季きくていはるすえはウームとそこへ気をうしなってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マクベスは妖婆ようば、毒婦、兇漢きょうかんの行為動作を刻意こくいに描写した悲劇である。読んで冒頭より門番の滑稽こっけいに至って冥々めいめいの際読者の心に生ずる唯一の惰性は怖と云う一字に帰着してしまう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
==篇中の妖婆ようばの言葉(がぎぐげご)はすべて、半濁音にてお読み取り下されたく候==
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まるで地獄の妖婆ようばの呪文みたいな、まことに異様な気持のする言葉で、あんな脳の悪い女でも、こんな不愉快きわまる戦慄せんりつの言葉を案出し投げつけて寄こす事が出来るとは、実に女性というものには
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると、そのほりぎわの木のかげから、ツイとはなれた人影ひとかげがあった。黒布こくふをかぶった妖婆ようばである。いうまでもなく、それは加茂かもどてから、三人のそうをつけてきた蚕婆かいこばばあ——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲劇マクベスの妖婆ようばなべの中に天下の雑物ぞうもつさらい込んだ。石の影に三十日みそかの毒を人知れず吹くよるひきと、燃ゆる腹を黒きかく蠑螈いもりきもと、蛇のまなこ蝙蝠かわほりの爪と、——鍋はぐらぐらと煮える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)