大入道おおにゅうどう)” の例文
後を振返れば、ドアの裏側がやっぱり鏡で、そこに実物の五倍ほどもある大入道おおにゅうどうのような博士の、あっけに取られた顔が覗いていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ひいさん、なにをびくびくしておいでだい。戸のそとに、大入道おおにゅうどうの鬼が来て、おまえをさらって行こうとでもしているのかい。」
身の丈五尺九寸もある大入道おおにゅうどう大眼玉おおめだま。容貌いたって魁偉かいいで、ちょうど水滸伝すいこでん揷絵さしえにある花和尚魯智深かおしょうろちしんのような面がまえ。
まして、ろくろ首にしたり、鉄棒を持たせたり大入道おおにゅうどうにして、ラングイヒゲを生やしたりすると一層滑稽になる。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
そして、くれないと金をまぜたような夕やけの空の中に、ぬうーっとあらわれたのは、おそろしい大入道おおにゅうどうでした。
赤ら顔の大入道おおにゅうどうの、首抜きの浴衣ゆかたの尻を、しちのづまでひきめくつたのが、にがり切つたる顔して、つか/\と、きざはしを踏んであがつた、金方きんかたなんぞであらう、芝居もので。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あまりにムクムクと膨れてきたので、破れたベビー服はよだれかけのように、申し訳にその首のあたりにぶら下っていた。こうして現れた摩訶不思議まかふしぎなる赤ン坊の大入道おおにゅうどう
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「一つ大入道おおにゅうどうにばけて若様がたを驚かしてくださいませんか? その五分刈りがまことに結構です」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
車の動揺どうようのために、ともすると、よろけそうになるのを、じっとふみこらえて、ランプをかたすみにさしつけると、大きな大入道おおにゅうどうのような影法師かげぼうしがうしろのいたかべにいっぱいうつった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
ちょっと見てからすきつねか盗賊か鬼かじゃかもしくは一つ目小僧か大入道おおにゅうどうかそれを確かめて、安心して画いたがよサそうなものだ、よろしいそうだと振り向こうとしたが、残念でたまらない
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やっと云う掛声と共に両手ががけふちにかかるが早いか、大入道おおにゅうどうの腰から上は、ななめにしりした蝙蝠傘こうもりと共に谷から上へ出た。同時に碌さんは、どさんと仰向あおむきになって、すすきの底に倒れた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、その闇の中を少し行くと、車は何か大きな建物らしいものの前に停った。燈火も何もない、黒い大入道おおにゅうどうの様な異様の建物だ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひめや。なにがこわいんだね。戸のそとに大入道おおにゅうどうでもきて、おまえをさらっていこうとでもしているのかい。」
あり合はせた草履ぞうり穿いて出る時、亭主が声を掛けて笑つた。其の炉辺ろべりには、先刻さっき按摩あんま大入道おおにゅうどうが、やがて自在の中途ちゅうとを頭で、神妙らしく正整しゃんと坐つて。……胡坐あぐらいて駕籠舁かごかきも二人居た。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
林が尽きて、青い原を半丁と行かぬ所に、大入道おおにゅうどうの圭さんが空を仰いで立っている。蝙蝠傘こうもりは畳んだまま、帽子さえ、かぶらずに毬栗頭いがぐりあたまをぬっくと草から上へ突き出して地形を見廻している様子だ。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
闇の中を走り去った、七八尺もある様な大入道おおにゅうどう。あれだ。「角力取みたいな」という言葉が、たちまちその当時の巨人の幻を描き出した。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、突然画面の右の隅へ、うしろ向きの大入道おおにゅうどうが現われた。活劇を見物している市民の一人が、うっかりカメラの前へ首を出したのであろう。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ボンヤリと闇の中に浮出した大入道おおにゅうどうみたいな野郎だったがね。そいつがおやしきの方からやって来て、この町を飛ぶ様に駈け出して行ったんでさあ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
堤の上の安全燈からさす光のほかは、隙漏すきも燈火ともしびさえなかった。暗黒の中に大入道おおにゅうどうの様な句碑がニョキニョキ立並んでいた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは、焼けあとの原っぱに、黒い大入道おおにゅうどうのように、つったっている、三階建ての焼けビルでした。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
遠くの海上に漂う大入道おおにゅうどうの様でもあり、ともすれば、眼前一尺に迫る異形いぎょうの靄かと見え、はては、見る者の角膜かくまくの表面に、ポッツリと浮んだ、一点の曇りの様にさえ感じられた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)