売卜者うらないしゃ)” の例文
ある時、母は私の行く末を心配するあまりに、善教寺という寺のそばに店を出していた怪しい売卜者うらないしゃのところへ私を連れて参りました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかもそれは別にこれという目的なしにいただいたのだから彼は平生でも、優に売卜者うらないしゃ顧客とくいになる資格を充分具えていたに違ない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
用人の五左衛門も心配して、あくる日は市ヶ谷で有名な売卜者うらないしゃをたずねた。売卜者は屋敷の西にある大きい椿の根を掘ってみろと教えた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お蔦はに落ちない容子をして、売卜者うらないしゃは、年紀としを聞きゃしないかい。ええ、聞きましたから私の年を謂ってやりました。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
喜「お前さまは売卜者うらないしゃか、どうもえらいもんだね、売卜者ばいぼくしゃだから負けるか負けねえかをて置いて掛るから大丈夫だ、誠に有難うござえました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
後に思えば、それは、つまらぬ売卜者うらないしゃであったらしい。彼の母は、そういうことに、特別な信念を持つ人であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしまたもや横町があって、そこの入り口へまで差しかかった時、一人の武士と売卜者うらないしゃとが、駕籠の行く手をさえぎるようにして、その入り口から走り出た。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戸惑いをした売卜者うらないしゃのようなよまいごとを喋るのがかんに触ってたまらん、あれをここへ連れて来て、眼の前で締め殺してくれ、こうして寝ていても、あいつの姿が目ざわりになり
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして鉄道線路のガードを前にして、場末の町へでも行ったような飲食店の旗ばかりが目につく横町よこちょうへ曲り、貸事務所の硝子窓ガラスまど周易しゅうえき判断金亀堂きんきどうという金文字を掲げた売卜者うらないしゃをたずねた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
売卜者うらないしゃのような人を馬鹿にした、……それでいてびようとするような顔をしている。角ばった、酒に酔ってでもいるような赤い顔で、大きいいやしい口に、赤い疎らな鬚をはやしている。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
肉の少ない細面ほそおもてあごの下に、売卜者うらないしゃ見たような疎髯そぜんを垂らしたその姿と、叔父のこの言葉とは、彼にとってほとんど同じものを意味していた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると本所ほんじょ北割下水きたわりげすいに、座光寺源三郎ざこうじげんざぶろうと云う旗下が有って、これが女太夫おんなだゆうのおこよと云う者を見初みそめ、浅草竜泉寺りゅうせんじ前の梶井主膳かじいしゅぜんと云う売卜者うらないしゃを頼み
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おおさ。旅の売卜者うらないしゃについて、お宅へ顔を見せたおし童僕ちごだよ。ジツの名、黒旋風こくせんぷう李逵りきだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売卜者うらないしゃになっても見料けんりょう五十文は確かに取れる」と、豊吉はいつもの癖でそり返って笑った。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして二十五六のころ、八百屋やおやを始めたが、まもなくよして、売卜者うらないしゃになった。かつ今はがたも知れない。そして見ると河田翁その人の脈胳みゃくらくには、『放浪』の血が流れているのではないか。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
アパートメントの一室を店にしている新時代の売卜者うらないしゃは年の頃四十前後、口髭くちひげを刈り洋服を着、鼈甲べっこうのロイド眼鏡をかけ、デスクにもたれて客に応対する様子は見たところ医者か弁護士と変りはない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なまじい売卜者うらないしゃの言葉などに動かされて、恥をいてはつまらないという後悔もまじった。すると四日目の午前になって、突然田口から電話口へ呼び出された。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頓と其の行先ゆくさきが分りませんので、梨売重助も心配して、お手紙一本お寄越しなさらない訳はないのだが、旅で煩っていらっしゃるのではないかと案じられるから、売卜者うらないしゃて貰ったり
この不決断をのがれなければという口実のもとに、彼はあんに自分の物数奇ものずきびようとした。そうして自分の未来を売卜者うらないしゃ八卦はっけに訴えて判断して見る気になった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのお宅番が諏訪部三十郎様にお前の親父様おとっさんの深見深左衞門様だ、すると梶井主膳と云う竜泉寺前の売卜者うらないしゃがねえ、諏訪部様が病気で退いて居て、親父様が一人で宅番して居るを附込んで
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
種々いろ/\心配して神鬮みくじを取ったり売卜者うらないしゃに見て貰いなどしたが分らない、殊に借財方から責められて、とても身代が持切れませんから、身代をしまいまして、七歳なゝつになるおえいを十文字に背負しょいまして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蓮「裏に居る売卜者うらないしゃの浪人の娘はい器量だね」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)