国府津こうづ)” の例文
旧字:國府津
「いくら然るべき事情があったって、ちょいと国府津こうづまで行くだけなら、何も手巾ハンケチまで振らなくったって好さそうなもんじゃないか。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
窓から首を出して見ると、一帯の松林のの間から、国府津こうづに特有な、あの凄味すごみを帯びた真蒼まっさおな海が、暮れ方の光を暗く照り返していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
轢死体のあった場所は、昔の東海道線、国府津こうづと松田の中間。今の下曾我のあたりだ。そのころは下曾我という駅はなかった。
国府津こうづに着くのは十時五十三分の筈であるから、どうしても、適当な時刻に箱根までぎ着けるわけにはかない。ままよ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
梅雨どきのこととて、国府津こうづを過ぎる頃は、雨がしきりに降り出して、しとしとと窓を打ち、その音が、私の遣瀬やるせない思いを一層強めるのであった。
猫と村正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と云って、今年六十七になる母親が、国府津こうづ附近まで泣き止まなかったのには全く閉口した。慰める言葉が無かった。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
国府津こうづ辺まで、それまでに荒しゃあがったんでね、二度目に東京を追出おんでてもどこへ行っても何でしょう、おかみさん。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これより下り坂となり、国府津こうづ近くなれば天また晴れたり。今越えし山に綿雲かゝりて其処とも見え分かず。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
国府津こうづへ着くまでのあいだも、途中の山や川の景色がどんなに私どもの眼や心を楽しませたか知れません。
停車場の少女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ことにそのなかの井部李花君に就いて私はういう話をした。私がこちらに来る四五日前、一晩東海道国府津こうづの駅前の宿屋に泊った。宿屋の名は蔦屋と云った。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
男からは国府津こうづの消印で帰途にいたという端書はがきが着いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
兄さんは国府津こうづ小田原おだわらの手前か先か知りませんでした。知らないというよりむしろ構わないのでしょう。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今日は、日本晴れですから、国府津こうづの叔母さんのお家からは、富士ふじさんがとてもよく見られますよ」
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
むろんすぐに家へは帰られないから、一週間ばかり体を清めるためその夜のうちに国府津こうづまで行った。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
人目に附くような容体におなりだったのでしょう。年末には大臣は国府津こうづに避寒に行かれたようです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
酒匂川筋の山北やまきた停車場や、吉田島や国府津こうづ停車場で売っている鮎のすしが評判なのもそのためです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
国府津こうづ小田原は一生懸命にかけぬけてはや箱根路へかかれば何となく行脚あんぎゃの心の中うれしく秋の短き日は全く暮れながら谷川の音、耳を洗うて煙霧模糊の間に白露光あり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
国府津こうづの海に入水じゅすいしたほど、「恋」に全霊的であり、彼女は事業も名誉も第二義的のもので、恋を生命としていたものは、それに破れれば現世に生きる意義を見出せないとまでいっている。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
我輩は門戸開放もんこかいほう主義で誰とでも喜んで話をする。この国府津こうづの別荘に来ておっても界隈かいわいの爺さん婆さん漁師どもを捉えて話をするが、なかなか面白い。大分お馴染みも出来、得るところもすくなくない。
国府津こうづの停車場前からはその頃既に箱根行の電車があった。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕は一夏を国府津こうづの海岸に送ることになった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
弁当まで同じのを国府津こうづで買っている。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「君は僕がどうしてあの晩、国府津こうづなんぞへ行ったんだか知らないだろう。ありゃね、いやになった女に別れるための方便なんだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
国府津こうづまでの、まだ五つも六つもある駅ごとに、汽車が小刻みに、停車せねばならぬことが、彼の心持を可なり、いら立たせているのであった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ようやく朝もおそくなって、国府津こうづや二宮、大磯などの警察から応援隊が到着して、どうやら組織的な捜査が行われるようになった始末であった。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かれこれするうち私たちは国府津こうづ駅に着きました。富士山が白い衣をかついではるか彼方につっ立っております。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
何の意味もなしに国府津こうづ駅で降りて何の意味もなしに駅前の待合所に這入って、飲めもしない酒をあつらえて、グイグイと飲むとすぐに床を取ってもらって寝た。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はその前ちょっと国府津こうづに泊って見るつもりで、あん一人ひとりぎめのプログラムを立てていたのですが、とうとう兄さんにはそれを云い出さずにしまったのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
国府津こうづへ着くまでのあひだも、途中の山や川の景色がどんなにわたくしどものや心を楽ませたか知れません。
列車は、もういつの間にか、幾つかの駅を通過して、だんだん国府津こうづの町へ近づいて行くらしい。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
国府津こうづと小田原の中間に「雀の宮」という駅があったようだと子供達と話していたら、国府津駅の掲示板を見ていた子供の一人からそれは「鴨の宮」だという正誤を申込まれた。
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そうです。たゞ国府津こうづから乗合わしたばかりなのです。が、名前は判って居ます。先刻名乗り合いましたから。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
国府津こうづに着いてから正宗の瓶と、弁当を一個買って翁に献上すると、流石さすがに翁の機嫌が上等になって来た。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尤もこの春ひどく疲れて豊島与志雄さんを訪ねて十番碁をやり常先に打ちこまれ、国府津こうづで泥酔して尾崎一雄とやって互先に打ちこまれ、勝ったのは村松梢風さんにだけ。
私の碁 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
このまま知らぬ顔をして、国府津こうづで降りてしまっていいものだろうか?
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
江戸時代ばかりでなく、明治時代になって東海道線の汽車が開通するようになっても、ず箱根まで行くには国府津こうづで汽車に別れる。それから乗合いのガタ馬車にゆられて、小田原を経て湯本に着く。
温泉雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
国府津こうづまで。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昨日きのうの特急で、神戸の港に着いている外国人の処へ取引に行きかけた途中で、まだ国府津こうづに着かないうちに、藤沢あたりから左のお乳が痛み出したっていうの……それでお附きの医者に見せると
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
江戸時代ばかりでなく、明治時代になって東海道線の汽車が開通するようになっても、まず箱根まで行くには国府津こうづで汽車に別れる。それから乗合いのガタ馬車にゆられて、小田原を経て湯本に着く。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
国府津こうづ駅前の土産屋の看板にも、たしか「酉水」が一枚あつた。
真珠 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)