咳払せきばらい)” の例文
旧字:咳拂
そのとき兄は、大きな咳払せきばらいと共に、重い扉を押して室内に入って来ました。勝見は白々しく敬礼を捧げましたが、再び嫂の方に向い
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寒月君は返事をする前にまず鷹揚おうよう咳払せきばらいを一つして見せたが、それからわざと落ちついた低い声で、こんな観察を述べられた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さとからじゃ、ははん。」と、ぽんと鼻を鳴らすような咳払せきばらいをする。此奴こいつが取澄ましていかにも高慢で、且つ翁寂おきなさびる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌朝純一は十分に眠った健康な体のい心持で目をました。只のどたんが詰まっているようなので咳払せきばらいを二つみつして見て風を引いたかなと思った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
トウトウ大変な事になって了った。富田さんは委細頓着なく、エヘンと気取った咳払せきばらいをして、早速読みにかかった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「きりょう自慢の若い同士には、男にわからない怨みがありますよ。身体がさわっても、変な眼で見ても、咳払せきばらいをしただけでも、喧嘩の種に困りやしない」
かくてその夜は十時頃まで富岡老人の居間は折々談声はなしごえが聞え折々しんと静まり。又折々老人の咳払せきばらいが聞えた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
また引つ返して格子前に来り「えへん/\/\」と咳払せきばらいし、どんどんと足踏し、さて戸をがらりとあく。
ものべたくなったときには、何時いつ躊躇ちゅうちょしながら咳払せきばらいして、そうして下女げじょに、ちゃでもみたいものだとか、めしにしたいものだとかうのがつねである、それゆえ会計係かいけいがかりむかっても
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
眼に軽侮の色を浮べて、せわしく咳払せきばらいをしはじめた、春日はそんなことに頓着せず押入の隅から、火気のない火鉢を障子の際まで持出し、頻りに灰を掻廻し何やら紙を出して包んだ
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
僕が咳払せきばらいを一ツやって庭場へ這入ると、台所の話はにわかに止んでしまった。民子は指の先で僕の肩をいた。僕も承知しているのだ、今御膳会議で二人の噂が如何いかに盛んであったか。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と言いかけて、暫時しばらく三吉は聞耳を立てた。階下したでは老人の咳払せきばらいが聞える。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うなりながら、喜んでいると、エヘンと云う人間の咳払せきばらいが聞えた。こいつは驚いた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
故郷ふるさとなる、何を見るやら、むきは違っても一つ一つ、首を据えて目をみはる。が、人も、もの言わず、いきものがこれだけ居て余りの静かさ。どれかがかすかに、えへん、と咳払せきばらいをしそうでさみしい。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汐焼した顔は、赤銅色しゃくどういろだ。彼は歩きながら、エヘンと咳払せきばらいをした。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「えへん!」と屋鳴りのするような咳払せきばらいを響かせた、便所のなかで。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隣の薩摩絣さつまがすりはえへんと嘲弄的ちょうろうてき咳払せきばらいをする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)