きら)” の例文
そも女人をんなは、一だい五千くわん、七千餘卷のどのきやうにもほとけになれないときらはれてゐるが、法華經ほけきやうばかりには女人によにんほとけになると説かれてゐる。
「旦那様の御体格では山路は骨が折れます。然ういうのを脂肪過多と申して軍隊では大層きらいます。脂肪過多は屹度扁平足へんぺいそくでありますからな」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
学問や知識のうえからそれを野に働く土民たちに教えることは、かえって、きらわれることになるだろう。——親鸞は考えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丈五郎は今では樋口家ひぐちけあるじだけれど、あたりまえの人間を呪うの余り、姓までも樋口をきらい、諸戸で押し通しているのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
其の不快を極むるところの一路なるをも忌みきらふにいとまあらずして渠身不相応なる大船の数々出入するに徴して知るべし。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
けれど私はそんなに孤月氏をきらつてはゐましたけれども何時でも後になると向ふの人の真実をふみつけにしたやうな不快な自分の態度を責めました。
誰しも苦痛心配はきらいであるが楽になッてから後、過ぎ去ッた苦痛を顧みて心に思い出したほど、また楽しみのことはない,それと大小の差はあるが、心持は一ツだ。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
きらわれるのは願い事がきまって居るからもあるし、それにあんまり愚痴っぽいからでもあった。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
林述斎が隅田川の風景を愛して橋場の辺に別墅べっしょを築きこれを鴎窼おうそうと命名したのは文化六年である。その詩集『濹上漁謡』に花時の雑沓をきらって次の如くに言ったものがある。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それで居て朝寝坊はきらひでしたから……恐らくまづ寝るは三四時が関の山でしたらう、……最も現在いまでも一晩や二晩の徹夜なら平気です。でも此のせつでは五六時間は眠ります。
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
まして西洋へ来て無弁舌なる英語でもって窮窟きゅうくつな交際をやるのはもっともきらいだ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふうむ、どうしてまた、そんなにきらわれたんで——。」
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「妾、そんな深刻めいた話、きらひだわ。」
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
泉さんは、きらいといえば、しんから底から厭いなかただったのだ。鏡花愛読者が鏡花会をつくって作者に声援していたころだった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
武蔵は、理由なく自分をきらう人間に、ッとしたらしく
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代りにまた、失恋した人、きらわれた男ときくと、その人を見下げないと、自分の沽券こけんにさわるように見もしかねない。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
席はむしろすきすぎていたのであったが、彼女は正体を見あらわされるのをきらったに違いなかった。艶やかに房やかな黒髪は、巧妙にしつらわれたかつらなのは、額でしれた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
きらいとなったら、どんな猛暑にも雷が鳴り出すと蚊帳かやのなかでふとんをかぶっていられるので、ある時、奈良へ行った便次ついでに、唐招菩提寺とうしょうぼだいじの雷けをもっていってあげたことを
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「お察しの通り、あの老婦人、マッケイのお母さんです。僕をきらった夫人ひとです。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それまで、彼女は、五年間ばかりいた赤坂檜町ひのきちょう十番地の家を引き払うことにしたのだ。拾った猫で、よくれているのがいたが、泡鳴がきらいだというので、近所へあずけてまで行くことにした。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは、錦子が感じた通りだったのだが、お母さんの方は、息子もきらいでなさそうな娘で、丁度さそうだと思うが、この娘が自分に代って炊事や、掃除そうじなどをするだろうかと考えるのだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
泡鳴氏が汚ながるし、きらいなので、捨てて来はしたが——
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「お師匠さんは、あんな役、きらいなんでしょ。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)