すすめ)” の例文
旧字:
なんとなく心配しんぱいそうなかおで、左様々々さようさよう左様さよう、と、打湿うちしめってってるかとおもうと、やれヴォッカをせの、麦酒ビールめろのとすすめはじめる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
日露戦争の当時、人のすすめに応じて、株に手を出して全く遣りそくなってから、いさぎよく祖先の地を売り払って、北海道へ渡ったのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今のような有様では折角せっかく食物衛生を天下にすすめても厭世観えんせいかんや悲哀観の流行するため人の元気沮喪そそうして食物を消化吸収するの力なく
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
保はの小結社の故を以て、刺客が手をうごかしたものとは信ぜなかった。しかししばらくは人のすすめに従って巡査の護衛を受けていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
処があとで関翁の話を聞けば、思いきや五郎君は翁の末子で、翁が武蔵野の茅舎ぼうしゃを訪われたのも、実は五郎君のすすめであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『だって無理だわ、信造さんに不動様を信仰しろなんて、今時の人にそんなことをすすめたって……』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
後藤子爵の一行と欧米視察の途に上り、英国に滞在中、ふとしたことから聯盟の事務局に入らぬかとのノッピキならぬすすめを受け、九月に帰朝する予定の身を以て八月から入ったのである。
三人のむかいは来ていたが、代助はつい車をあつらえて置くのを忘れた。面倒だと思って、嫂のすすめしりぞけて、茶屋の前から電車に乗った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小山「そうかね、是非ぜひ一つ僕の郷里へすすめて実施させたいと思うが素人しろうとにはとても駄目だめだね。我邦わがくにには今熟練なる技術者が沢山あるかしらん」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
三十六年には脩が九月に静岡に往って、安西あんざい一丁目南裏みなみうらに渋江塾を再興した。県立静岡中学校長川田正澂かわだせいちょうすすめに従って、中学生のために温習の便宜をはかったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一つどうですと向う側の田中君から瓢箪形ひょうたんがた西洋梨せいようなしすすめられた時は、手を出す勇気すらなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悪いといへば兼吉つあんの顔色の悪さ、一通りの事ではなささうなり、今から帰るでもあるまじ、不肖ふしょうしておれに附き合ひ喫み直してはと遠慮なきすすめに、おかみが指図して案内あないさするは二階の六畳
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
日本の婦人は日中芝居へ往く暇があっても家で三、四時間の料理をする暇がないのでしょうか。私は世間の婦人に一年間芝居へく時間と入費とを倹約して食物の研究についやして御覧なさいとすすめます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
井深は細君のすすめまかせてこの縁喜えんぎの悪い画を、五銭で屑屋くずやに売り払った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)