刺客しかく)” の例文
そののち僕は君とまじわっている間、君の毒気どくきてられて死んでいた心を振い起して高いのぞみいだいたのだが、そのお蔭で無慙な刺客しかくの手にかかって
江戸ではたしかに田沼政権の倒壊した際にも、刺客しかくの佐野ぼうを世直し大明神とって、墓参りがにぎわったという話もある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
露八は、勤王党の若い武士が刺客しかくの害にったという話を聞くと、すぐに弟の八十三郎を思ってひそかに気遣きづかうのだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼朝が逝去せいきょするとともに、頼家が家督かとくを相続したが、朋党ほうとう軋轢あつれきわざわいせられて、わずかに五年にして廃せられ、いで伊豆の修禅寺しゅぜんじ刺客しかくの手にたおれた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
残る三人の卍組刺客しかくたちにも、てまえがもう死んだごとくに装って、その凶刃から一生安楽にのがれるつもりでござりましたが、右門のだんなの慧眼けいがん
六七年ぜんの新聞の綴込みの中から「青年刺客しかく」という大活字を添えた、私ソックリの大きな写真版を発見した時のAの驚ろきと喜びはドンナでしたろう。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その勢いの烈しさにさすがの刺客しかくが、刀を取り返そうともせず、鞘までも落したままで一目散いちもくさんに逃げてしまった。
勿論、弱きを助けて強きをくじくという侠気も含まれているには相違ないが、その以外に刺客しかくとか、忍びの者とか、剣客とかいうような意味が多量に含まれている。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
西南戦争ののち程もなく、世の中は、謀反人むほんにんだの、刺客しかくだの、強盗だのと、殺伐さつばつ残忍ざんにんの話ばかり、少しく門構もんがまえの大きい地位ある人の屋敷や、土蔵のいかめしい商家の縁の下からは
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
康頼 重盛に秘して、暗夜あんや刺客しかくしのび込ませましたか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
覆面の刺客しかくなる者がやたらに跳梁ちょうりょうし出してきた。一、二をいえば、直義が院参の帰り道を襲撃され、直義は難もなかったが、随身のひとりが斬られた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オランダ公使から贈られた短銃たんづつも、愛用の助広すけひろもすぐと手の届く座右ざうにあったが、取ろうとしなかった。刺客しかくだったら、とうに覚悟がついているのである。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
おそらく刺客しかく仕業しわざであろうと、燭をとって室内を見廻ったが、別に何事もなかった。
と、常識的なうわさもあり、そうかと思うと、春日山城内で、かわやにゆくところを、刺客しかくのために殺された——などといて奇説を附会する者もあった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その両国橋へさしかかったとき、察しの通り、やはり刺客しかくが伏せてあったのです。橋袂はしたもとのお制札場の横から、ちらりと黒い影が動いたかとみるまに、つつさきらしい短い棒がじりッとのぞきました。
短い刃をうしろにかくして、陣幕とばりのすきから寝息をのぞく——。黒髪をうしろへ長く垂れた田舎娘の刺客しかくだった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五人は、刺客しかくだった。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
その弦之丞を狙い打つため、あとを追ってきた蜂須賀家の刺客しかく天堂一角も、同時に江戸入りをするであろう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わっと、逃げる役人を、両の手につかんで、江のうちへ叩き込み、さらにもう一名の刺客しかくへ追ッついて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その眼だ。人の生命いのちを狙っているその眼。察するところ、汝は刺客しかくだ。父上のお命をうかがいに来たな」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刺客しかく三人は、蒋門神の弟子だと分った。武松はその男を裸にさせた。そして自身の獄衣を脱ぎ、そっくり着がえて、男の持っていた大きな野太刀まで召上げてから
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、人を殺せ、という刺客しかくの役だったが、元成はこの一念で、出来ないことはないとおもった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何をしているのか天堂一角、刺客しかくとなってかれをつけて行きながら、いまだに刺止しとめることができぬらしい。——それをみても、弦之丞と申すやつは、一癖あると見えまする」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自身刺客しかくとして弦之丞をつけ廻るうちに、関屋孫兵衛せきやまごべえ旅川周馬たびかわしゅうまという、ふたりの剣士にもすくなからぬ助力を得ている旨が追記してあり、関屋孫兵衛は、もと、御当家の原士の者ゆえ
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは後から身を狙っている刺客しかくのあることを、とうにさとっていたのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)