刷毛先はけさき)” の例文
暖簾のれんしたにうずくまって、まげ刷毛先はけさきを、ちょいとゆびおさえたまま、ぺこりとあたまをさげたのは、女房にょうぼうのおこのではなくて、男衆おとこしゅうしん七だった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
青い空の静まり返った、上皮うわかわに白い薄雲が刷毛先はけさきでかき払ったあとのように、すじかいに長く浮いている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際往来を一つへだててゐる掘割の明るい水の上から、時たま此処に流れて来るそよ風も、微醺びくんを帯びた二人の男には、刷毛先はけさきを少し左へ曲げた水髪のびんを吹かれる度に
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
唐桟とうざんを狭く着て、水髪みずがみ刷毛先はけさきを左に曲げた、人並の風俗はしておりますが、長い鼻、団栗眼どんぐりまなこ、間伸びのした台詞せりふ、何となく犢鼻褌ふんどしが嫌いといった人柄に見えるから不思議です。
そこの芸者、いけねえよ、その刷毛先はけさきをパラッと……こういう塩梅式あんべいしきに、鬼門をよけてパラッと散らして……そうだ、そう行って山王さんのうのお猿様が……と来なくっちゃ江戸前でねえ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
丸味を帯びた細い眉、切長で涼しくて軟らか味のある眼、少し間延びをしているほど、長くて細くて高い鼻、ただしまげだけは刷毛先はけさきを散らし、豪勢いなせに作ってはいるが、それがちっとも似合わない。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多助はおえいをつれて参り、見物させて帰ってくると、其の跡から続いて内へ入って来た男は、胴金造りの長物ながものをさし、すげの三度笠を手に下げ、月代さかやきを生し、刷毛先はけさきちらばし、素足に草鞋を穿いて
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
青い空の静まり返つた、上皮うはかはに、白い薄雲うすぐも刷毛先はけさきで掻き払つたあとの様に、筋違すぢかひに長く浮いてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほとんどひといきに、二三日前にちまえ奉公ほうこうた八さい政吉まさきちから、番頭ばんとう幸兵衛こうべえまで、やけ半分はんぶんびながら、なかくちからあたふたとんで徳太郎とくたろうは、まげ刷毛先はけさきとど
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
髷の刷毛先はけさきを直して、肩から裾のほこりを拂ふと、ガラツ八はもう歩き出して居りました。
岡眼おかめをしていた閑人以上の閑人が、今ふと薬屋の路地を入って行った女の姿を認めた時は、一局の勝負がついた時であったから、こんな場合にはまげ刷毛先はけさきの曲ったのまでが問題になる。
十月の素袷すあわせ平手ひらてで水っぱなで上げながら、突っかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなっているものの、十手じってを後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬいの方を向いて、とにもかくにも
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
八五郎は刷毛先はけさきで格子を叩くやうに、明神下の平次の家へ飛び込んで來ました。
頭の空っぽな美男によくある、まげ刷毛先はけさきや、腹掛けのしわや、煙草入の金具ばかり気にするといった男。爺やの熊吉は、馬糞茸まぐそたけが化けて、仮に人間のヒネたのになったといった老人です。
頭の空つぽな美男によくある、髷の刷毛先はけさきや、腹掛の皺や、煙草入の金具ばかり氣にすると言つた男。爺やの熊吉は、馬糞茸まぐそたけが化けて、假りに人間のヒネたのになつたと言つた老人です。
十月の素袷すあはせ、平手で水つぱなを撫で上げ乍ら、突つかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなつて居るものゝ、十手を後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬゐの方を向いて、兎にも角にも、馬鹿な威勢です。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)