冷々ひや/\)” の例文
光線を多く取つてない私の郷里などの古い建築法で造られた家は、中の土間へ入ると冬でも夏でも冷々ひや/\とした風が裾から起つて来るのでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ひかりもあからさまにはさず、薄暗うすぐらい、冷々ひや/\とした店前みせさきに、帳場格子ちやうばがうしひかへて、年配ねんぱい番頭ばんとうたゞ一人ひとり帳合ちやうあひをしてゐる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
冷々ひや/\とした部屋の空氣の中でその鳴聲を聞きながら、毛筆屋の子に笑はれた洋燈の下で、私は斯の手紙を書き續けます。
此拍子に応じて三十人の抜き身がぴか/\と光るのだが、是は又頗る迅速な御手際で、拝見して居ても冷々ひや/\する。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「何と巧い言方だらう!」私は快く冷々ひや/\する玻璃盃コツプを握つた儘、一人幽かに微笑んで見た。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
夜明よあけにひどく冷々ひや/\したつけかんな」おしなはいつて一寸ちよつとくびもたげながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
聞いてゐる三田が冷々ひや/\する程、蟒の口のきき方は遠慮が無かつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
茂「手前てめえが余計なことを喋りそうにするから、おら冷々ひや/\したぜ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いままでそのうへについてあたゝかだつた膝頭ひざがしら冷々ひや/\とする、身體からだれはせぬかとうたがつて、彼處此處あちこちそでえりはたいてた。仕事最中しごとさいちう、こんな心持こゝろもちのしたことははじめてである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宿の女中が物を持運んで来る間ですら、夫人は静止じつとして居られないといふ風で、廊下の外へ出て、冷々ひや/\とした空気を呼吸した。宿の女中はてすりのところへ来て、暗い大きな海浜院の建物を指して見せた。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たゞなかにも、はじめてうれしさをりましたのは、わたしたちをんななが黒髮くろかみです……しろまくらながれるやうにかゝりましたのが、自分じぶんながら冷々ひや/\と、こほりばしていたやうで
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)