入交いりまじ)” の例文
いまだ昼前だのに、——時々牛の鳴くのが入交いりまじって——時に笑いきょうずるような人声も、動かない、静かに風に伝わるのであった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画家の名を負うたヷン・ダイクの河岸かし凹凸あうとつの多い石畳を踏み、石炭、干魚ほしうを、酒などの匂ひの入交いりまじるのを嗅ぎながら色んな店をのぞいて歩いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
粗製濫造から来る偶然の省略法や単化と、ガラスの味とが入交いりまじってまたすてがたい味を作っているものがあるのです。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
さらに不思議なことはその間を飛び飛びに、他の色々の方言の入交いりまじっているのである。
小僧も、若者も、番頭も入交いりまじりで、ゆかりのある家の女供や近所の者が、風はなし、自由に広しするので遊びにゆくので、とても壮観な位に、しまいには屏風もとりはらってしまっての追羽根になる。
入交いりまじりに波に浮んでいると、かっとただ金銀銅鉄、真白まっしろに溶けたおおぞらの、どこに亀裂ひびが入ったか、破鐘われがねのようなる声して
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄暗い穹窿きゆうりゆうもとに蝋燭の火と薫香の煙と白と黄金きんの僧衣の光とが神秘な色を呈して入交いりまじり、静かな読経どくきやうの声が洞窟の奥にこだまする微風そよかぜの様に吹いて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ト屋根に生えた草の、葉と葉が入交いりまじって見え透くばかりに、月が一ツ出ています。——今の西瓜が光るのでした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめのうち一廻ひとまわりも太ったように思われてかゆさがたまらなかったが、しまいにはげっそりせたと感じられてずきずき痛んでならぬ、その上を容赦ようしゃなく歩行あるく内にも入交いりまじりにおそいおった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめのうちは一まはりふとつたやうにおもはれてかゆさがたまらなかつたが、しまひにはげつそりせたと、かんじられてづきづきいたんでならぬ、其上そのうへ用捨ようしやなく歩行あるうちにも入交いりまじりにおそひをつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またたに翼を組んで、黒点先刻さっきよりもやや大きく、二つが一つになつて、と、細眉ほそまゆまると、たちまちほぐれて、びく/\と、ずり退いたが、入交いりまじつたやうに覚えて、ほおの上で再びひとひとツに分れた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)