充満みちみち)” の例文
旧字:充滿
陰気な、不潔な、土埃の臭ひと黴の臭ひの充満みちみちたる家であつた。笑声とはしやいだ声の絶えて聞こえぬ、湿つた、唖の様な家であつた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
背戸口せどぐちは、充満みちみち山霧やまぎりで、しゅうの雲をく如く、みきなかばを其の霧でおおはれた、三抱みかかえ四抱よかかえとちが、すく/\と並んで居た。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼のせはしげに格子をあくるを待ちて、紳士は優然と内にらんとせしが、土間の一面に充満みちみちたる履物はきものつゑを立つべき地さへあらざるにためらへるを、彼はすかさず勤篤まめやか下立おりたちて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
社員しやゐん充満みちみちていづれも豪傑然がうけつぜんたり、機会ときにあたれば気は引立ひきたつものなり、元亀げんき天正てんしやうころなれば一国一城のぬしとなる手柄てがらかたからぬが、きしつゝみ真黒まつくろ立続たちつゞけし人も豪傑然がうけつぜんたり
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
創作力に充満みちみちていた。それをこんなつまらないことで、破壊されるのは厭だった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此の頭三三八何ばかりの物ぞ。此の戸口に充満みちみちて、雪を積みたるよりも白くきら々しく、まなこかがみの如く、つの枯木かれきごと、三たけ余りの口を開き、くれなゐの舌をいて、只一のみに飲むらんいきほひをなす。
山の根をうねり、岩に躍り、なぎさかえって、沖を高く中空に動けるは、我ここに天地の間に充満みちみちたり、何物の怪しき影ぞ、まどかなる太陽の光をおおうやとて、大紅玉の悩めるおもてを、ぬぐい洗わんと、苛立ち
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水に充満みちみちた亀なのであった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)