傍目はため)” の例文
この両人ふたりが卒然とまじわりていしてから、傍目はためにも不審と思われるくらい昵懇じっこん間柄あいだがらとなった。運命は大島おおしまの表と秩父ちちぶの裏とを縫い合せる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その老母が病んで逝去みまかると、生信房のなげきは傍目はためにも痛々しいほどで、幾日も食を断って、母の墓掃はかはきに余念なく暮している様子を見
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちらは濛々と大きなお鍋から湯気が立って、傍目はためにはひどく美味しそうだったが、取柄といえば温いばかり。今夜も下らなく仇辛いお雑炊だった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その時、体をひどく悪くしていたことも手伝って、それなりに文壇を遠退とおのいてしまった。傍目はためにはそうまでしなくてもよさそうに思われたに違いない。
私はオリザニンの注射カムフルの注射で飽きあきしてスエ子の一日に二度の注射を傍目はためにも重荷のように眺めます。スエ子は目下職業をさがしています。
水を差すべくその愛は傍目はためにも余り純情で、殊更ことさららしい誠実を要せず、献身を要せず、しかいさゝかの動揺もなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
傍目はためには、ちっとも派手でないけれども、もそもそ、満面に朱をそそいで、いきんでいました。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ほんとだよ。お前さんとこの人との相対あいたいずくなら、何を言おうと勝手だろうがね、なんぼこの人だって少しや傍目はためというものがあろうじゃないか。あんまり阿漕だよ。」
傍目はためには恋人同士のように見えたかも知れません。実際これから熱海で静養させる妻と二人きりの生活のことを考えると、新婚当時の悦びをまた繰り返している気持でした。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
封建武士は、余所よその花を傍目はために眺めて暮らすの外、別に妙手段もなし。彼らの世禄せいろくは依然たり、社会の生活は、駸々乎しんしんことして進歩せり。今は詮方せんかたなし、ただ借金の一あるのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いかなる深刻な懊悩おうのう、いかなる精神的苦痛、傍目はためには知れぬ失意、はげしい苦悶がその動機となっての結果であろうか? こうした場合に世間ではよく恋愛関係の悲劇を探したり想像してみたりする。
一生懸命に柔和であろうとする小さな努力が傍目はためにもよく見えた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それにしては、余りに今度のことは理に合わないご折檻せっかんではありませんか。傍目はためにも疑われるほど……実に苛烈すぎる」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊東入道のじょ八重姫に恋なされたかと思えば、亀の前に移り、北条殿の深窓へも文を通わされる。……何たる痴者ちしゃ。……傍目はためにすら、舌打ちが出る。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分では何の症状も覚えず、つねにゆがめられざる正気せいき昭々しょうしょうまなこをもって、世をること、国を思うこと、忘れぬつもりではいても……。さて、傍目はためには如何いかがなものやら
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手につばし、わらごき、たなごころと掌を合わせてう力にも、何か傍目はためにも分る熱気がこもっていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、露八は、髪結かみゆいの亭主と同じように、傍目はためからみればいい身分のような境涯だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸妓おんなたちは、冗談じょうだん嫉妬しっとを、巧みに交ぜて、二人を揶揄からかった。まったく、斧四郎はお喜代を大事にしているし、お喜代は、斧四郎に、心から素直にかしずいていて、傍目はためにも、こまやかな愛情が見える。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「余りにお忙しいので、傍目はためにも、お体が案じられまする」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傍目はためもない恋を語らい合っている様もまま見かけられた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傍目はためにはまるでおかしいような狂態を現わして来た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傍目はためにも並ならぬお心入れのようでした
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)