伴侶つれ)” の例文
そして更に氣のついた時には、この親子は男の伴侶つれであるやうにわざと寄り添ひ、末野は、女とすれすれに歩いてしきりに話しかけた。
末野女 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
自分は三沢とかず女の話をした。彼のめとるべき人は宮内省に関係のある役人の娘であった。その伴侶つれは彼女と仲の好い友達であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの愉快な伴侶つれの大声で笑っている風と、それから人間と、人間の恐怖と人間の小さい都市と、そのあとは大きな河流と荒れた空地と大きな新しい山と
人馬のにひ妻 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
あの終宵よっぴて伴侶つれを呼ぶような、耳についた声は、怪しく胸騒ぎのするまで捨吉の心を憂鬱にした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一緒に連れ立つて来てゐるBの伴侶つれが、普通の女のやうに、さうした冒険に同意しなかつたならば、矢張その結果は同じことで、そのまゝお了ひになつて了つたであらうが
山間の旅舎 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
謎の女の姓名は園原雪枝と呼ばれていたが、雪枝は時々洋装姿を黒の逸物にゆらりと載せ拮屈たる木曾の峠路を風のようにはしらせる事があったが、大概は男の伴侶つれがあった。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
前者は一群をなして横に動き、ベッセルの伴侶つれはこれを見て鳥の群れが動くようだといい、舟子は同所において、その以前にも、かかる火をたびたび見たことがあるといった。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
貴方あなたを、伴侶つれ、伴侶と思います。あ、あ、あの、楽屋の中が、探険、……」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は今までかつて感知したことのなかったまぼろしの社会というものに対して渇望かつぼうしていたので、実生活の間にそれをあさると同時に、わたしの幽霊の伴侶つれに長いあいだ逢えないでいるということに
私はそんな風にして、伴侶つれもなく話相手もなく、全く独りぽつちで終日店番をして居なければならなかつた。身体を崩すことが出来ないばかりでなく、同じ様に一刻も心をゆるめることが出来なかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
自分に都合の好い理窟りくつを勝手にこしらえて、何でも津田を引張ろうとする小林は、彼にとって少し迷惑な伴侶つれであった。彼は冷かし半分にいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身の迅さは朝の日の上ぼらぬ前に何処かのまちの塔の上に唄うべくあかつきの中から飛びのぼる鳥のようであった。彼と風とは中よしの伴侶つれであった。歓喜のあまり彼は歌の如く感じた。
人馬のにひ妻 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
……唄の声がこの月に、白玉しらたまの露をつないで、おどろの草もあやを織って、目にあおく映ったと思え。……伴侶つれが非常に感に打たれた。——山沢には三歳みッつになる小児がある。……里心が出て堪えられん。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木村常陸介はこう云いながら伴侶つれの山尾を返り見た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の車室内へ運んでくれた果物くだものかごもあった。そのふたを開けて、二人の伴侶つれに夫人の贈物をわかとうかという意志も働いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると聯想れんそうがたちまち伴侶つれの方に移って、女が旦那だんなから買ってもらったかわの手袋を穿めている洋妾らしゃめんのように思われた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伴侶つれわかい女であつた。代助はまだ廿はたちになるまいと判定した。羽織をないで、普通よりは大きくひさしして、多くはあご襟元えりもとへぴたりとけてすはつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その伴侶つれは若い女であった。代助はまだ二十はたちになるまいと判定した。羽織を着ないで、普通よりは大きくひさしを出して、多くは顎を襟元へぴたりと着けて坐っていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はこう云って隣りにいる自分の伴侶つれを顧みた。中折なかおれの人は仕方なしに「ああ」と答えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
着いた時には五六人の伴侶つれがいたが、帰りにはたった一人になっていたと下女は告げた。自分はその五六人の伴侶の何人なんびとであるかについて思い悩んだ。しかし想像さえ浮ばなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君大阪へ着いたときはたくさん伴侶つれがあったそうじゃないか」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)